旅行記:チベット編

電子書籍『チベットへ』を出版

ふと思い立って、DIYで電子書籍が作れるBCCKSで、旅行記『チベットへ』を出版してみた(元ネタはもちろんこのblogに載せた旅行記)ので、よろしければご笑覧ください。はたしてどんな反応があるのやら。 福林靖博著 『チベットへ』(2012.05.03 蒼風出版発行…

西蔵2001_旅地図

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ザンムーへ

翌日はツアー最終日。さっさと中尼国境へと車を飛ばしたいところだ。 出発の準備で皆がバタバタしていた頃、リュウが妙なことを言い出した。 「馬でネパールまで行きたい!」 見ると、宿の馬を引っ張り出してきている。どこかでそう言う話を聞いたことあるよ…

エベレスト・ベースキャンプにて

ランドクルーザーの旅3日目。この日、エベレスト・ベースキャンプへ向けて出発した。リュウは、まだ死んでいる。 高原の一本道をずっと飛ばしていくと、突如、左に折れる曲がり角が見えてきた。その脇には、真っ蒼な空ににゅっと突き出した緑の看板があって…

シガツェにて

翌朝、起きると今度はリュウがグロッキーだった。 「げっぷが卵の臭いする…」 アジアの旅行者の間で言われる「卵げっぷ病」というやつだ。何かの細菌が胃の中に入って、下痢やら吐き気(嘔吐)を引き起こす病気らしいが、正式な病名や詳しいことは分からない…

ギャンツェにて

ギャンツェは、ラサ・シガツェに次ぐチベット第三の街だ。インドとチベットを結ぶ交易路上に位置していて、それでいて農業も盛んで…という話は聞いていた。 しかし、である。 まだグロッキー状態のローレンを残して街に繰り出した俺たちを待っていたのは、「…

ギャンツェへ

話は1日ほど遡る。 鳥葬ツアーから帰った日の夕方、ホテルの隣の「マタニー」飯店でリョウやマサたちと晩御飯を食べていたときだ。一人の日本人旅行者が店の前を通りかかった。今さっきラサに着いたらしく、薄汚れた服に大きなバックパックをかついでいる。…

ラサにて(9)

「そろそろラサも潮時だな」と思った。 犬にかまれたジェニスは、ラサ市内の病院で診てもらって大事に至らなかったが、念のために飛行機で北京に戻ることになった。仕事を辞めてきた旅を途中で切り上げなくてはならない彼女の胸中はなかなか読めなかったけど…

ラサにて(8)

ラサに到着して1週間も経とうとした頃気温がぐっと下がりだした。遠くに望む山々も少しずつ雪化粧をするようになっていた。 冬の足音が少しずつ大きくなってきたある日、ヤク・ホテルの隣部屋のツイスト・ヘアーのリョウが、相棒の丸刈り眼鏡のマサと鳥葬ツ…

ラサにて(7)

ラサについて5日も経つと、最初の昂揚感も次第に薄れ、惰性の日々が始まる。 まず、朝早く起きることが難しくなってきた。「明日も朝日を見に行こう」「朝からパルコルを回ろう」とか考えながら眠りにつくのだが、夜が明けても温かいブランケットから這い出…

ラサにて(6)

ヒマラヤを取り巻く高地一帯に付けられた名称である「チベット」という言葉の響きは、旅行者を惹きつけるものがある。それが、近代の一時期と中国共産党の支配下に入ってからの閉鎖的な政治状況から連想されるものなのか、チベットに根付いた仏教のエキゾチ…

ラサにて(5)

チベットからネパールに抜けようとする場合、どういう手段を取ればよいか。 夏場はツーリスト・バスなんかも出ているらしいのだが、旅行者が激減し、道路事情が悪くなる冬場は、ランドクルーザーをチャーターするしなかい。そして、そのチャーター代金は往々…

ラサにて(4)

夕方、リュウが部屋にやってきた。 「晩飯、食おうよ。ジョカン前で知り合ったチベタンのカップルと仲良くなってさ、飯の約束したんだよねー。」 断る理由はない。どうせ暇なのだ。同じく部屋で暇そうにしていたハッカクも行くというので、3人でホテルの2軒…

ラサにて(3)

朝、目が覚める。 外はまだ暗い。しゃべり疲れたドミトリーの住人たちはまだ眠っている。起こさないように静かにセーターを着込んで、Gパンをはく。敦煌で買った人民解放軍払下げの羊毛コートを羽織り、スニーカーをはく。ニット帽をかぶり、軍手をつける。…

ラサにて(2)

陽も傾いてきたので、ヤク・ホテルに戻った。 部屋は清潔で、ベッドが5つ並んだドミトリー形式になっていた。相部屋になっていたのは、日本人の大学生の男2人組と、日本人とイギリス人の一人旅の女性がそれぞれ1人ずつの、合計4人。昨日の夜遅くに入ってきた…

ラサにて(1)

翌朝、目が覚めると、真っ先にシャワーを浴びた。勢いよく出る湯で、旅の汚れを洗いおとした。 9時すぎにホテルを出た。ホテルの前の大通りを、方角もよく確かめないままに歩いていった。ラサの標高は3500メートル。酸素が少ないためか、足もとが少しフワフ…

ラサへ

夜になった。 暗くなるとチェックポストの監視が緩くなるからか、バスは止まらずに暗闇の中を走り続けた。気温はぐんぐん下がってくる。毛布を頭からかぶってひたすら堪える。真っ暗な車内を時々照らすような対向車もない。ひたすら漆黒の闇の中を、頼りない…

ゴルムドを出発

昼を少し過ぎた頃、タクシーに乗せられて、街外れの貨物用と思しきターミナルに連れいかれた。人影は、ない。 てっきり、何人かの旅行者と一緒にラサまで連れて行かれると思っていたのに、どうやら客は俺一人らしい。 「このバスだよ。先に乗って少し待って…

ゴルムドにて(2)

出発は昼過ぎになると言う。 「あまり外をブラブラするなよ!公安に見つかると厄介だしな!」 男達は何度も念押ししたが、俺は無視することにした。 「見つかって困るのは、公安よりも商売敵だろ?」 と日本語で言い残して、俺は敦煌で買った人民解放軍コー…

ゴルムドにて(1)

寝台バスのベッドから身を少し起こし、垢で薄汚れた毛布を少し押しのけて窓の外を見たが、何も見えない。本当にここはゴルムドなのだろうか? 昨日の晩に敦煌を出てすぐ寝てしまったし、そもそも真っ暗闇の祁連山脈を縦断してきたので、外の景色は見ていない…

ゴルムドへ

西蔵に行ってみようかなと思った。 身動きがとれないというのはこういう状況のことをいうのだろうか。俺は、カシュガルの華僑賓館の一室で、一人頭を抱えていた。 ウルムチでは、カザフスタンどころか、新疆北部のイリ地方にすら入ることができなかった。長…