避暑地及び湯治塲に於ける理想的圖書館

「避暑地及び湯治塲に於ける理想的圖書館」『図書館雑誌』3号, 1908年6月, p.58-59.

twitterで見かけたのだが、海外彙報のエントリーの一つのようだ*1
紹介されているのはアメリカはメイン州ポーランドの温泉施設、ポーランドハウスの図書室。
1895年に37冊の蔵書からスタートして、12年後には4,800冊を超えていたそうだが、その増加のほとんどは、施設側の購入ではなく、利用者の寄付によっていたというところがポイントだろうか。
日本にも草津町立図書館の温泉図書館もあるが、これはそのハシリと言えるだろう。

  1. 「SL銀河の宮沢賢治文庫」(2019/10/16)
  2. 「『観光文化』243号「特集:観光と図書館~地域の観光に図書館はどう寄与できるか~」」(2019/10/15)
  3. 「再びオランダへ」(2019/3/29)
  4. 「汽車中の図書室 簡単なる旅中の伴侶」(2017/5/26)
  5. 和田万吉の「旅客の為めに図書館」(2012/8/15)
  6. 『図書館雑誌』2012年8月号に「マレビト・サービス」を執筆(2012/8/14)
  7. マレビトサービス#2:西牟田靖編(2011/5/15)
  8. 同時多発的お花見ストリーム/マレビトサービス#1:石田ゆうすけ編(2011/4/7)
  9. 地域と観光に関する情報サービス研究会第三回研究会(2011/3/25)
  10. 地域と観光に関する情報サービス研究会第二回研究会(2011/2/22)
  11. 地域と観光に関する情報サービス研究会第一回研究会(2011/1/23)
  12. 地域と観光に関する情報サービス研究会(マレビトの会)発足(2011/1/11)
  13. 図書館と観光:その融合がもたらすもの(2010/12/27)
  14. Airport Library @スキポール空港(2010/9/8)
  15. 鼎談「まちづくり・観光・図書館」(2010/7/5)
  16. 観光と図書館の融合の可能性についての考察(2010/5/1)
  17. アーバンツーリズムと図書館(2009/3/24)
  18. Tokyo's Tokyo(2009/3/4)
  19. 旅の図書館(2009/2/12)
  20. 南益行の「観光図書館論(2009/1/27)
  21. 旅人のための図書館を夢想する(2008/12/27)
  22. 蛇足 「八重山図書館考」(2008/10/10)

*1:元ネタはPulic Libraries誌のようだが、現物は未確認

勉強会@中央線Z2019~中秋の変

(57) 2019/10/17 高円寺HACO 大沼太兵衛国立国会図書館)「Et cætera autour des Humanités numériques et de la « Digital Archive » en France」

直近の自分の本業での関心事項から企画した今回は、「フランスにおけるデジタルヒューマニティーズ&デジタルアーカイブをめぐるあれこれ」ということで、珍しく?看板通りの「勉強会」となりました。
お馴染みの"Gallica"(国立図書館デジタルアーカイブ)から、"Persée"(国営のデジタル化した学術雑誌DB)、"HAL"(国営の機関リポジトリプラットフォーム)、"Huma-Num"(国営のデジタルヒューマニティーズのプラットフォーム)、"OpenEdtion"(オンライン出版の支援プラットフォーム)といった様々なプラットフォームから、"Testaments de Poilus"のような具体的なデジタルヒューマニティーズのプロジェクトまで、最近の事情を手広く紹介してもらいました。
ざっと挙げてみて改めて感じるのは、大沼さんが指摘していたように、「中央集権志向なのにプレイヤーが多く複雑」というのがフランスらしいと言えばフランスらしい…ということでしょうか。
この辺り、ただでさえ最近の変化が激しいのに、日本語や英語で動向をウォッチしている媒体があまりないので、非常に助かりました。言語だけなら何とかなっても、ではどこから、最低どこまで見ておけばいいのか…という勘所がなかなか難しいんですよね。
また、資料だけ見てもある程度は追えるのでしょうけど、気になったことをその場で確認したり、議論したりすることができる「場」があるのも良かったかなと感じています。
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SL銀河の宮沢賢治文庫

汽車の乗客のために図書室を設けよう…と最初に言ったのは和田万吉で、そのことをここでも紹介したものの、それはあくまでも当時のことで、21世紀のこの時代にそぐうものではないと考えていた。
けれども、先日、岩手県SL銀河に乗ったときに、こういう展開ならアリだな…と思ったので、備忘のためにここにも書いておく。
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SL銀河は花巻と釜石の間を結ぶ観光用のSLで、遠野に長めに停車するなどゆっくり5時間近くをかけて走っている。
5時間というと結構な時間だが、風光明媚な車窓だけでなく、停車駅での「おもてなし」や、車内でのプラネタリウム宮沢賢治のコスプレ写真撮影、スタッフによるボイラー焚きの解説など、アトラクションがふんだんに盛り込まれていて時間の長さを感じさせない*1
そんなアトラクション?の一つに、地元出身の有名な作家であり、沿線には文学館も建てられている宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」の自筆原稿や、本や雑誌などを並べた書棚(セレクションは宮澤文学の研究者でもあるロジャー・パルバース氏による)もあるのだ。
さいころ宮澤賢治の書いたものを読んだり、教科書でその名前を目にしたり…という人は多いだろうが、普段、改めてその著作を読む…という人はいないだろう。かくいう自分も含めて。
けれども、そのゆかりの土地を走る汽車の中の、有り余るほどの時間のうちのほんの少しの間でも、その著作を手に取って眺める…というのは、とても贅沢な時間のつかい方ではないだろうか*2
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  1. 「『観光文化』243号「特集:観光と図書館~地域の観光に図書館はどう寄与できるか~」」(2019/10/15)
  2. 「再びオランダへ」(2019/3/29)
  3. 「汽車中の図書室 簡単なる旅中の伴侶」(2017/5/26)
  4. 和田万吉の「旅客の為めに図書館」(2012/8/15)
  5. 『図書館雑誌』2012年8月号に「マレビト・サービス」を執筆(2012/8/14)
  6. マレビトサービス#2:西牟田靖編(2011/5/15)
  7. 同時多発的お花見ストリーム/マレビトサービス#1:石田ゆうすけ編(2011/4/7)
  8. 地域と観光に関する情報サービス研究会第三回研究会(2011/3/25)
  9. 地域と観光に関する情報サービス研究会第二回研究会(2011/2/22)
  10. 地域と観光に関する情報サービス研究会第一回研究会(2011/1/23)
  11. 地域と観光に関する情報サービス研究会(マレビトの会)発足(2011/1/11)
  12. 図書館と観光:その融合がもたらすもの(2010/12/27)
  13. Airport Library @スキポール空港(2010/9/8)
  14. 鼎談「まちづくり・観光・図書館」(2010/7/5)
  15. 観光と図書館の融合の可能性についての考察(2010/5/1)
  16. アーバンツーリズムと図書館(2009/3/24)
  17. Tokyo's Tokyo(2009/3/4)
  18. 旅の図書館(2009/2/12)
  19. 南益行の「観光図書館論(2009/1/27)
  20. 旅人のための図書館を夢想する(2008/12/27)
  21. 蛇足 「八重山図書館考」(2008/10/10)

*1:全て宮沢賢治と「銀河鉄道の夜」に関係するものなので、SL銀河はちょっとした「走る文学館」とでも呼べそうな仕上がりである。

*2:パラパラと読むのに手ごろな絵本や子ども向けのj本が多いのも、宮沢賢治ならではだろう。

『観光文化』243号「特集:観光と図書館~地域の観光に図書館はどう寄与できるか~」

日本交通公社が刊行している『観光文化』243号(2019年10月)の特集が「観光と図書館~地域の観光に図書館はどう寄与できるか~」だった。中心となったのは、ここでも紹介した旅の図書館吉澤清良氏と大隅一志氏のお二人のようだ。
こういった特集が組まれたことを、まずは素直に評価したい。ここでも内容を簡単に紹介しておこう。
「図書館を取り巻く動向と観光振興」を整理した上で、高山市図書館「煥章館」八戸ブックセンター恩納村文化情報センター奈良県立図書情報館甲州市立勝沼図書館小布施町立図書館千代田区立千代田図書館東近江市立八日市図書館伊那市立高遠町図書館といった事例を紹介し、奈良大学の嶋田学氏と文筆家の猪谷千香氏という最近業界で話題の方々の対談で話を広げ、「観光と図書館~地域の観光に図書館はどう寄与できるか~」で視座を示す…という構成になっている。
個人的には、コラム「半世紀以上も前に提唱されていた“観光と図書館”」として、ここでも紹介した和田万吉南益行の(エッセイに近い)論文が紹介されているのも嬉しいところ。残念なところがあるとすれば、近年最初に南益行に再注目したであろうこのブログとまでは言わないまでも、『図書館雑誌』2012年8月号に寄稿した拙稿を参考文献に挙げるくらいのことはしてほしかった…という点(そもそも、当該号の特集は「観光ポータルとしての図書館」だったのだが、それへの言及もない)。

  1. 「再びオランダへ」(2019/3/29)
  2. 「汽車中の図書室 簡単なる旅中の伴侶」(2017/5/26)
  3. 和田万吉の「旅客の為めに図書館」(2012/8/15)
  4. 『図書館雑誌』2012年8月号に「マレビト・サービス」を執筆(2012/8/14)
  5. マレビトサービス#2:西牟田靖編(2011/5/15)
  6. 同時多発的お花見ストリーム/マレビトサービス#1:石田ゆうすけ編(2011/4/7)
  7. 地域と観光に関する情報サービス研究会第三回研究会(2011/3/25)
  8. 地域と観光に関する情報サービス研究会第二回研究会(2011/2/22)
  9. 地域と観光に関する情報サービス研究会第一回研究会(2011/1/23)
  10. 地域と観光に関する情報サービス研究会(マレビトの会)発足(2011/1/11)
  11. 図書館と観光:その融合がもたらすもの(2010/12/27)
  12. Airport Library @スキポール空港(2010/9/8)
  13. 鼎談「まちづくり・観光・図書館」(2010/7/5)
  14. 観光と図書館の融合の可能性についての考察(2010/5/1)
  15. アーバンツーリズムと図書館(2009/3/24)
  16. Tokyo's Tokyo(2009/3/4)
  17. 旅の図書館(2009/2/12)
  18. 南益行の「観光図書館論(2009/1/27)
  19. 旅人のための図書館を夢想する(2008/12/27)
  20. 蛇足 「八重山図書館考」(2008/10/10)

勉強会@中央線Z2019~盛夏の変

(56) 2019/8/2 高円寺HACO 野末俊比古青山学院大学)「情報リテラシー教育は本当に必要なのか―図書館を例にあらためて考える」

新シリーズ2回目は、久しぶりに図書館ドップリ(当会比)なネタとメンツでの開催となりました。

というこの(若干煽り気味の)問いは、このテーマで長年研究されてきた野末さんによって発せられるからこそ、重みをもちます。
野末さんの軽妙な仕切りの下で議論は弾み、そして問いが問いを呼ぶ、刺激的な展開となりました。

議論は大いに盛り上がったのですが、盛り上がり過ぎた結果、ご用意いただいた半分しか開陳できないうちに時間切れとなってしまいました。
一応書いておくと、前半部分の結論としては、必要なのは大学教育のためではなく、社会を生き抜いていくための「情報リテラシー」は必要だよね(意訳)、という感じでした。
では、それを図書館サービスにどう落とし込んでいくのか…。
今回は、野末先生が手掛けていらっしゃる某新図書館構想プロジェクトでのアレコレを元にしたお話でしたので、プロジェクトのフェーズがもう少し進んだところで、「後半」をお伺いする機会が持てればなぁ…と厚かましくも考えています。

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勉強会@中央線Z2019~初夏の変

一年がかりでやってきた10周年記念イベントが一区切りがついて、元号も改まって…ということで、やってることは全然変わらないので完全に気分の問題なのですが、「勉強会@中央線Z」という旗を掲げて12年目に突入していきたいと思います。
新シリーズ初回は、この4月に上京してこられた福島幸宏さんの歓迎会も兼ねて、一席お願いしました。珍しく、現在の自分の本業にガッツリ関係するネタでもあります。

(55) 2019/5/24 高円寺HACO 福島幸宏東京大学)「デジタルアーカイブの今後ー見世的な整理と個人的野望」

事前には、ざっくりと「今後の企みというか目指すところを話してほしい。それらを踏まえて議論しましょう」とだけ、福島さんにお願いしていました。
当日の福島さんからは、ここ四半世紀の日本におけるデジタルアーカイブ」の系譜とその射程範囲及び関係者をざっと整理した上で(「デジタルアーカイブ」は日本にしかない…という言説もあるような気がしますが(笑))、デジタルアーカイブという領域を設定し得るのか、或いは学問として成り立ち得るのか、そして「デジタルアーカイブ学会」とはどのような場であるべきなのか、という問いが提起されました。
今回の参加者は、奇しくも日本のデジタルアーカイブを引っ張る実務者・研究者・技術者が一堂に会していて、議論は大いに盛り上がりました(その他、評価指標や人材育成の話も出ていましたね)。その内容は福島さんのこれからのアウトプットに消化/昇華されるようなので、ここでは言及せずにそれを待つことにしたいと思います。
何はともあれ、福島さんのパワフルなキャラクターが全面に出た、とても楽しい時間でした。あんまりやらないのですが、テーマに即した参加者で固めると議論が一層ドライブするという、典型的な会だったと思います。どこかで続編を企画することにしますかね。
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スケベニンゲンへの道

 「オランダの有名な避暑地の名前、スケベニンゲン!」

 嘉門達夫がこう叫ぶ「学問」という歌を初めて聞いたのは、小学生のころだった。女友達から借りたカセットテープに入っていた曲だったと思う。
 いかにも小学生が喜びそうなその名前に、当時の私も例に漏れずに「なんちゅう名前やねん(笑)」と無知蒙昧な反応していたのだが、そのうち嘉門達夫を聴くこともなくなり、それとともに「スケベニンゲン」という名前も記憶の彼方に押し流されたのであった。

www.youtube.com

 

 そして30年後の2019年。野暮用でハーグに行くことになり、ガイドブックをパラパラと眺めていて気がついた。

「ハーグにほど近いビーチリゾートの<スヘフェニンゲン>って、あの<スケベニンゲン>か!」
 実は9年前にもハーグに行っているのだが、当時はこの事実を完全に見落としていたようだ。オランダに着いてから野暮用の都合で急きょハーグに立ち寄ることになっただけなので、ろくにハーグ自体のことを調べなかったからだろう。
 こうなると、9年前の忘れ物を回収するためにも、「どうしても行きたい」と思うのが人情というもの。行って何があるわけでもないだろうが、とにかくスケベニンゲンの地を自らの目で見て、自らの足で踏みしめたくなってしまったのだ。嘉門達夫の歌も、再び頭の中でリフレインするようになった。

 今回はハーグに3泊することになっているのだが、到着するのは夕方だし、その後の2日間は朝から夜まで野暮用で拘束されるので、空いているのは最終日の朝、フライトまでの数時間しかチャンスはなさそうだった。

 

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 そして、迎えた最終日の朝。それまでひどい時差ボケに苦しんでいたのだが、ようやく身体がこちらの時間に適応してきたようで、すっきり目が覚めた。シャワーと食事を手早く済ませて、準備も万端だ。
 ホテルの外へ出てみると、前日の霧は消えたものの相変わらずの曇天で少し肌寒いが、小雨がぱらつくこともなさそうだった。フライトには11時までにホテルを出れば十分間に合うので、それまでの2~3時間の間にスケベニンゲンまで行って帰ってくればよいことになる。

 ガイドブックの地図を見てみると、ノールドアインデ宮殿の近くにあるホテルからスケベニンゲンまで5km、トラムだと20分もあれば着いてしまう距離らしい。1時間もあれば問題なく行って帰ってこれるわけだが、それももったいない気がしたので、思い切って歩いていくことにした。ホテルを出てすぐの道を海に向かってひたすら直進すればいいだけなので、さすがに迷うこともないだろう。それに、行って帰ってくるだけになるかもしれないが、街の様子もより感じることができるかもしれない。
 シャツの上に薄手のフリースを着こんで、歩き始めた。

 

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 宮殿前の運河沿いに少し歩いてから、大使館などが並ぶ閑静な通りを抜けていく。早い…というほどの時間ではないと思うが、土曜日ということで人影もまばらだ。
 15分も歩くと、威容を誇る平和宮殿が見えてきた。開場までまだ少し時間があるらしく、門の前に観光客が10人ほど立っている。せっかくの機会なので見学したいところだったが、今回はパス。縁があれば、また訪問する機会もあるだろう。
 さらに歩を進めると、スケベニンゲン森林公園の入り口が見えてきた。公園に沿ってスケベニンゲンへと続く車道とトラムの軌道と並行するように、公園の中を小径が走っていたので、こちらを歩くことにする。適度にアップダウンもあるし、なかなか歩き甲斐のあるコースだ。東京に置き換えると、代々木公園の中のランニングコースを延々とあるいているようなイメージだろうか。
 こんなことならランニングシューズを持ってこれば良かったなぁと思いながら、ずんずん歩いていく。時折り自転車で疾駆する人や、犬を連れた人とすれ違ったりしながら20分ほど歩くと、公園が途切れた。次はどうやら、高級住宅街エリアのようだ。木立の向こうに瀟洒な建物がチラホラと見える。
 バスやトラムに次々と抜かれていくが、気にしないことにしてさらに歩くと、こじんまりとした市街地に入る。どうやらスケベニンゲンに着いたらしい。大きなスーパーや協会があったので、観光地ではないスケベニンゲンの中心地はこの辺りのようだ。
 さらに真っすぐ歩いていくと、これまでずっと並走してくれていたトラムの軌道が道なりに右折して逸れていくポイントに出くわした。恐らく軌道に沿って歩いていけば、スケベニンゲンのシンボルである華麗なクールホテルや大きな桟橋に着くのかもしれない。だが、ここまでの1時間近くの歩きで疲れていたので、海までの最短距離をとることにして、そのまま直進して少し細い通りに入る。
 この通りは地元のスーパーや八百屋などに混じって、観光客向けに魚を食べさせる飲食店や土産物屋も並んでいて、金曜日の夜などはさぞや賑わっていただろう。けれども、この時間だと多少の人通りはあるとはいえ、店は軒並みシャッターを下ろしており、まるでうらぶれた観光地のような味わいだ。

 

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 通りを抜けたところに教会があって、その前の坂を上ると、目の前に茫漠とした北海が飛び込んできた。
 どんよりと暗い雲が水平線に覆いかぶさり、少しかかった靄がその境目を曖昧にしている。不自然に大きな街灯は所在なげに立ちつくして、海からの風にさらされている。遠くには、でかい観覧車を積んでまるで打ち捨てられた戦艦のようなでかい桟橋が、海に向けてせり出している。そして、点在するシャッターの下りた建物が、季節外れのビーチの印象をさらにくすんだものにしている。
 まるで、ニール・ヤングの『渚にて』のジャケットそのままの光景だった。私が目にしたスケベニンゲンは、嘉門達夫が言っていたようなリゾート地でもなく、あるいはハーグ中央駅前に掲げられていたポスターのような、週末の笑顔溢れるレジャーランドでもなかったのだ。

 そのことが不満だったわけではない。
 むしろ、このまるで「地の果て」のようなスケベニンゲンに満足していた。それは、この日本人にとってインパクトのある名前を持つこの土地にようやく立つことができた、というだけではない。初めてユーラシア大陸の「果て」で海を臨むということができたということによる満足感なのだが、これには少し説明が必要だろう。
 18年前、私はユーラシア大陸の東の端・上海から西へ向けて進む旅に出た。しかし、与えられた時間と折からの国際情勢は私にパミールを越えてさらに大陸の「果て」までたどり着くことを許さなかった。そして、その後も大陸の「果て」に立ちどこまでも続く海を臨む機会は訪れなかった。
 しかしこの日、図らずもその機会が訪れたのだ。冷静に考えれば、ここは大西洋を臨むロカ岬でもないし、そのまままっすぐ行けばグレートブリテン島にほどなく突き当たるし、そもそも海に面してさえいればスケベニンゲンである必要もない。
 けれども、ここで私はどうやら、9年前の旅ではなく、18年前の旅の忘れ物を見つけたらしい。この日のスケベニンゲンが私に見せてくれたこの寂寥とした表情は、その心象風景にふさわしいものだったのだ。

 

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 しばらく海を眺めてから、桟橋の方には向かわずに、来た道を戻ることにした。
 縁があれば、またスケベニンゲンに来る機会もあるだろう。その時に、この街はどのような表情を見せてくれるだろうか。