チェンセーン(1)

 チェンライからバスに揺られること1時間、チェンセーンはチェンライより更に僕好みだった。つまり田舎だったのだ。セブンイレブンも無い程の。田舎とは言っても、かの有名なゴールデン・トライアングル(G.T.)まで9kmの所に位置しており、G.T.へのボートツアー(かなり高め)の発着所となっているから、観光客は結構通過するし、似合わないお洒落なカフェも存在していて、かなり過し易そうだった。
 バスを下りてメコン川の方へ歩いていった。そしてT字角の先に広がっていたのは、想像より遥かに大きかったメコン川と、僕の中では「神秘の国」だったラオスだった。「成程、これだな」別にこれが何というわけでもなかったが、思わず口走ってしまった。
 宿はT字の所から川沿いにG.T.の方へ2〜3分歩いた所にあるSIAM G.H.に決めた。窓からメコン川が見える、というわけにもいかなかったが、なかなか感じ良かった。部屋に荷物を置いてすぐ、G.T.へ行こうかとも思ったが、どうも腹の調子が思わしくなかったのでやめた。無難に近くの寺巡りをすることにした。

 バス停(チェンセーンにはバスステーションと呼べる物は存在しない)近くの寺院遺跡内の公衆トイレで生理的欲求を満たした後、その隣の国立博物館へ。さすが田舎の博物館、客は僕一人だったし、係員もヒマそうに頬杖をついていた。そんな中、掃除係のオバサンはモップをかけながら、朗々たる声で“タイの演歌”と思しきものを歌っていた。余りの見事さに立ち止まって聞いていたら、こっちの姿に気付いたらしく、恥ずかし気な笑顔を残して慌てて中庭へ消えていった。

 郊外にある岡の上の寺からの見晴らしが素晴らしい、と聞いたので、旧城壁の外のその岡に行くことにした。途中、ワット・パサック遺跡公園を少し過ぎた辺りで、道が2つに分かれていた。まだ岡は見えないし、果たしてどっちに行ったものかと迷っていたら右の道から精神に障害があるのか、ドラッグでもやって少しネジがゆるんだのか分からないが、いかにもやばそうなタイ人の汚らしい兄チャンがニヤニヤ、フラフラしながらやって来て、一言「何してるんだ?」ときいてきた。はっきり言って、かかわり合いたくなかったが、炎天下迷うよりは、と思って、寺へ行くにはどっちへ行くんだ、ときいてみた。すると兄チャン、黙って自分の来た道を指したのだ。ホンマカイナと思いつつ、礼を言って、そっちへトボトボ歩いていった。しきりにこっちをジッと見つめる兄チャンを振り返りながら。