図書館員学習論事始
- 作者: 中原淳
- 出版社/メーカー: 東京大学出版会
- 発売日: 2010/11/05
- メディア: 単行本
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さて、この本は、アンケート結果の統計処理をベースに、個人の職場における他者に支援された学習について、「人は職場で、どのような人々から、どのような支援を受けたり、どのようなコミュニケーションを営んだりしながら、職務能力の向上を果たすのか」、「職場における人々の学習を支える他者からの支援やコミュニケーションに影響を与える、職場の組織要因とはどのようなものなのか」といった問いに答えるべく論考が進められています。
その内容はいずれも興味深いのですが、とりわけ気になったのは、職場における支援について。それは、「業務支援」「内省支援」「精神支援」の3つに分けられるそうですが、それぞれの支援が、上司、先輩、同僚、部下のどこから与えられるのかをアンケートデータを元に検証した結果、個人的に耳が痛いことが指摘されています。曰く、「上司からの「業務支援」は量としては多いものの、能力向上には結びついていない一方で、上司があまり行っていない「精神支援」は、能力向上に結びついていること」。ちなみに、これは職種別(サービス/企画/営業/事務/SE・技術/研究開発など)にも検討されているのですが、図書館員はどこに入る/近いのでしょうか。
このように、直感的/経験的にに「そうだよな、そうだろうな」というのが実証されていくのが本書の特徴なのですが、最後にもう一つ興味深い指摘があります。今後の研究の方向性として、本書でも言及された「組織社会化論」、「経験学習論」、「職場学習論」、「組織学習論」といった枠組みに加え、「越境学習論」(組織外へ越境して行われる学び)への視座が提示されています。ここは、昨今の勉強会ブームを考えると非常に興味深いところです。と同時に、「越境」という言葉について、もう少し考える必要があると僕は思います。
話を図書館業界に移して考えてみます。
ここ1,2年の図書館界のネットワーキング/勉強会ブームには目を見張るものがあります。U40、Lifo、MULU(みちのく大学図書館員連合)、ku-librariansなど、様々な集まりが開催され、若手を中心とした多くの図書館員がそこに参加しています(残念ながら決してマジョリティではないですが)*1。その背景としては、
- 折からのtwitter等のソーシャルメディアの普及でコミュニケーションが容易に。
- 折からの勉強会ブームが図書館界にも波及(ブーム自体もIT業界が発生元と言われますが、業界内での仕掛け人の一人がIT業界出身のARGの岡本真さん。)。
- そもそも図書館員は勉強会(研究会)が好き(大学図書館問題研究会、図書館問題研究会などの老舗研究会は業界内では有名だが、若手から敬遠されがち/現在の状況に対応できていないようで、その受け皿として新たな繋がりの場が作られるという側面もあると思う)
- そもそも図書館員は、同じ養成機関出身(筑波(旧図情大含む)、慶応などが大手です)だったり、採用時に「司書枠」で採用されることが多いため連帯意識が強い(特に国立大学図書館業界だと機関を超えて異動するのが普通)。
- そもそも図書館員は職員数が少ない機関に属することも少なくないので、他機関と交流せざるを得ない(「one person library」なんて言葉もあります)。
といったことが考えられるかなと思っています。ただ、同じ業界人が殆ど(しかも、わりと固定メンバー)の場に出かけて「越境」というのはちょっと違うとも思います(もちろん、こういった業界内のネットワーキングは業務を行っていく上で非常に重要なので、否定はしません。念のため)。
話を元に戻します。
以上のような特徴は、恐らく図書館業界だけに見られるものではないと思います。ということで、「越境学習論」に包含される概念として「業界学習論」というのも想定すべきではないでしょうか。このテーマで論文が書けそうな気がしますねぇ…。
※『職場学習論』掲載図を元に、筆者が作成