西牟田靖『ニッポンの穴紀行』

西牟田靖さんから新著を拝領しました。「大日本帝国」、「国境」に続く今回は、日本各地の「穴」を巡る紀行文集。

ニッポンの穴紀行 近代史を彩る光と影

ニッポンの穴紀行 近代史を彩る光と影

思うに、人為的な「穴」は、強烈な意志なしには掘られることはない。とすれば、その「穴」を書くということは、それを掘った人々の思いと、彼らを突き動かす時代の流れを書くことに他ならない。そしてそれは、(副題に掲げられているとおり)「近代史を彩る光と影」を炙り出すことになる。そう考えると、この本の狙いは非常に明確です。

軍艦島〜要塞のような廃墟、日韓トンネル新興宗教がもくろむ壮大な計画、狩勝隧道〜開拓のために捨てられた人と穴、黒部ダム〜高熱隧道とくろよん、諏訪之瀬島〜ヒッピーとヤマハ皆既日食人形峠〜ウラン鉱山、滋賀会館〜娯楽の殿堂とミスタータイガース、沖縄のガマ〜開発と基地・戦没者国会図書館納本制度と電子化・検閲
新刊「ニッポンの穴紀行」、12/16発売となります:<表も裏も見渡したい>より

僕がこの本を拝領したのは、自分の職場についての章の冒頭で、取材の契機となる情報を提供する「関係者である知人」として登場するから。2009年の春頃、西牟田さんとこの本にも登場する光文社の壇さんも交えて阿佐ヶ谷で飲んでいた時のことでした。書庫自体がでっかい「穴」であるうちの職場がどのように書かれているかはお読み頂ければ良いのですが、珍しいところでは発禁本が取り上げられています(これらはある意味近代出版史上の「穴」と呼べるものかもしれません)。
ところで、「穴」としての図書館というと、仲俣暁生さんが図書館のメタファーとして多用するリチャード・ブローディガンの『愛の行方』を思い出します。

愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)

愛のゆくえ (ハヤカワepi文庫)

ここで登場する図書館は人々が一番大切な思いを綴った本だけを所蔵するのですが、それらの本は時が経つと図書館の裏の穴に退蔵されてしまいます。ダークアーカイブ化されてしまうわけですね。それが何のメタファーだと言われても困るのですが(「そういった情報へのアクセスを担保するのが図書館の役目です」という位しか言いようがない)。
ともあれ、ぜひご一読あれ。