『日本の図書館におけるレファレンスサービスの課題と展望』

"業界関係者にしか認知されていない図書館サービス"として揶揄されがちなものの一つに、「レファレンス・サービス」というのがある。ざっくりまとめると、図書館員による「ユーザの調べ物をお手伝いする」行為全般を指し、「質問に答える」という受動的なものから、使えるコレクションの構築や予めヘルプとなるツール(業界では「パスファインダー」と呼ぶ)の作成といった能動的なものまで、多岐にわたるものだ。しかし一方で、「質問に答える」という狭義の解釈に押し込めようとする人も多い。
これは色々な理由があると思っているが、その一つにはサービスの実態がよく分からない→図書館(員)によって解釈がバラバラなままにサービス→ユーザも認識しづらい→サービスが定着しない…という負のスパイラルがあるのではないかなーという気がする。
ところで、「レファレンス・サービス再考」というエントリーでも書いたが、僕はひところ、レファレンス・サービスの担当だった時期がある。その時も同じようなことを考えて、まずは「図書館の持つ知的資源をきちんと管理する」というところから(言い換えると、業務モデルを構築するところから)サービスの再定義をしようとした(その辺りについては、「図書館サービスにおけるナレッジマネジメントツール」『情報の科学と技術』2012-6を参照)。上手く行ったところもあったし、思ったように行かなかったこともいっぱいあったが、今でもこのアプローチは間違っていなかったとは思う。しかし、結果としてそれが普遍的なものになったかと言うと、残念ながらそういうわけでもない。その後、レファレンス・サービスからは離れてしまったが、そこがずっと心残りだった。
そんな個人的な関心もあったので、国立国会図書館からこのたび(平成25年4月)刊行された『日本の図書館におけるレファレンスサービスの課題と展望(図書館調研究リポート No.14)』はスルーできない。ということで、簡単に紹介。内容としては、おおよそ次のような3段構成となっている。

  • 国内約4,000機関へのアンケートに基づく、各機関におけるレファレンス・サービスの実態調査(位置づけ、運営、人的資源、新規サービスなど)
  • フォーカス・グループインタビューに基づく、(潜在的に)ニーズを持つであろう人々(在野の研究者、ポスドクNPOスタッフ(特に震災支援系)、地域振興従事者、農業・産業従事者など)のレファレンス・サービスに対する認識調査
  • 2つの調査に基づく論考(課題分析、展望)

この報告書の白眉は、何といってもこれまでの類似の報告書(しかも多くない)とは比べ物にならないレベルでの機関の網羅性。そこから得られた下のような分析結果は、非常に興味深い。

  • 「レファレンス・サービス」=「質問回答サービス」だが、処理基準や専用の受付スペース、担当者はない方が多い。
  • 従事者においても、研修時間の確保、事例データの蓄積やノウハウの共有が課題となっている。

また、フォーカス・グループインタビューから得られた下のような分析結果も興味深い。

  • 情報の入手(行政からの情報ニーズも高い)においては複数の情報源が求められており、人からの入手が中心となっている一方で、ソーシャルメディアからの入手も増えている。
  • 情報の評価、組織化に対するニーズも高いが、レファレンス・サービスについての認知度は高くない(=潜在的なニーズはある)。

こういった調査を踏まえ、本報告書では、次に挙げるようなサービス展開を提案している(僕が引っかかったものを列挙)。

  • 地域・行政・人(know who情報)に関する情報サービス
  • 情報の入手・評価・発信のリテラシーに関するサービス
  • つながり/情報発信/学習の場としてのサービス

同意するものばかりだが、どれも「レファレンス・サービス」というより、図書館サービス全体に対する展開として読めるところがポイントだ(この時点で「やっぱり「レファレンス・サービス」という言葉自体が不要だろ」というツッコミが来そう)。最後の論考においてもトータルアプローチの必要性が指摘されているのも頷ける。とは言え、アンケートから浮かび上がるように、レファレンス・サービス自体が良い意味で「型」を持つに至っていない以上、理論の整理やモデルの検討、データや調査の蓄積といった努力も必要だろう。
けれども一方で、僕が先に書いたような仕事の取組みを某大先輩に話した時に言われた、「やりたいことはわかるけど、それが定着する頃には図書館は終わってるよ。まずは「身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ」だよ」というのが、ずっと引っかかっていたりする。これまでの延長線の上で考えていてはダメということなんだろうけど、恥ずかしながら僕は未だこれに対するうまい回答を持ち合わせていない。報告書では、各地で生まれている「萌芽的活動」への着目が必要という指摘があったが、これをうまくやるのがまずはその第一歩なのかな…とも思うけど、はてさて。
そして、「レファレンス・サービス」をめぐる逡巡は続く。