小笠原長生『英皇戴冠式参列渡英日録』

小笠原長生 『英皇戴冠式参列渡英日録』 東京, 軍事教育会, 明治36(1903)年, 157p.

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東アジアに勢力を拡大させつつあったロシアに対抗するために日本と英国の間で締結されたのが、1902年の日英同盟。折しもその3か月後に行われた英国王エドワード7世戴冠式には明治天皇の名代として出席した小松宮彰仁親王随行員としてともに渡英したのが本書の筆者・小笠原長生(1867-1902)である。小笠原は旧唐津藩小笠原長行の長男で、明治17年に子爵となっていた。この後の日露戦争にも軍令部参謀として従軍した。
本書は、小笠原が、「専ら少年子弟の海事思想の養成に益する」ために帰国中の艦内で日記をもとに書かれたもの。この渡英に同じく同行した、関重忠の写真集・『渡英のおもかげ』(中尾新太郎, 1903年)も出版されている。
この旅行記の特徴的なところは、その無駄のない格調高い文体に加え、軍艦の中での日常生活の描写が事細かに書かれていることと、合同演習・戴冠式やそれに伴う夜会や視察旅行についても詳しく述べられているところだろう。海軍軍人の華やかな一面と地味な一面をともに提示することで、海軍軍人を目指す若者に具体的なイメージを持たせようとする小笠原の意図がよく分かる。
余談だが、末尾に「渡英艦隊の歌」というものが収録されている。