広瀬武夫『航南私記』

広瀬武夫遺著, 松平直亮校 『航南私記』 東京, 松平直亮, 明治38(1905)年, 175p.

<本文>

本書は、日露戦争で戦死して「軍神」と崇められた海軍軍人・広瀬武夫(1868-1904)が、若い頃に参加した訓練航海の日記である。広瀬の没後、彼の死に感銘を受けた伯爵・松平直亮が広瀬の兄勝比古から許可を得て刊行したもので、冒頭には彼の墓碑銘が掲載されている。
明治24(1891)年9月20日から翌年4月10日まで、練習艦「比叡」で行われた海軍兵学校18期の遠洋航海に、当時少尉だった広瀬も参加した。往路は品川を出航し、グアムを経てオーストラリアへ、復路はフィリピン方面から香港を経由して品川へ。乗り組んだのは艦長の森又七郎大佐以下総勢361人(うち兵学校生61人)。広瀬は分隊士として、士官候補生たちの指導に当たったようだ(この航海で、シドニーに停泊した際に便乗者(記者など)の一人であった松岡好一が姿を消したことは前に書いたとおり)。
軍人らしい堅い文章で、その日の天候や測量データなども盛り込まれているのが特徴的だろう。またその中に、広瀬の趣味だったという漢詩がところどころに挿入されているのも面白い。
ところで、この航海については、広瀬個人のものの他に水路部が刊行した公式記録である『軍艦比叡濠洲航海報告』(東京, 水路部, 明治26年)も残っている。