4日目:バンコク→プーケット

 最初に書いたとおり、今回の旅では、メンバーからそれぞれ寄せられたリクエストをもとに、私が行き先や旅程を組んでいったのだが、バンコクでのリクエストは、ヒサシの“タイ式マッサージ”だった。彼はその後の数年間、居酒屋店長として連日のように「だるい」「眠い」という台詞を繰り返すことになるのだが、就職前からそのことを予見していたかのようなチョイスだった。
 そこで、この日は昼からワット・ポーへ行ってみた。ガイドブックによると、このお寺の境内にあるマッサージ・ルームで、本格的なタイ式マッサージが格安で受けられるらしい。
 うだる暑さに挫けそうになりながらも、寺の建物やでかい涅槃仏をスルーして、我々はマッサージルームへ駆け込んだ。中にはマットがたくさん敷かれていて、その上ではアクロバットな姿勢を強要されながらも、どこか恍惚の表情を浮かべる観光客が大勢寝転がっていた。我々も、スタッフに案内されるままに空いたマットに寝転がされ、そのまま屈強そうなマッサージ師に組み敷かれた。
 結論だけ言ってしまうと、途中したたかに痛めつけられたのも事実だが、大満足の気持ちよさである。旅の疲れで重くなっていた身体も、何だか軽くなったような感じだ。
 ただ、肝心のヒサシだけは、マッサージ後もなぜか釈然としない微妙な顔をしていた。わけを訊ねたところ、「なんで俺の担当だけ男やねん・・・」とボソリ。
 ここのマッサージ師のほとんどはおばちゃんで、ヒサシ以外の4人の担当もそうだったのだが、運の悪い?ことに、彼はその例外に当たったのだった。そして、そのおっさんの施術が事の外気持ちよかったらしく、もっと言うと、彼の性感帯を刺激したらしく、それ故に彼としては(なおさら)納得いかなかったらしい。
 コーディネイターの私としたことが、さすがにそこまではケアできずに、結果として彼の青春の一ページにミソをつけてしまったようだ。べつに謝らないけど。

 さて、次の目的地は、ケンタロウが「絶対にビーチを入れろ」ということで行き先に組み入れたプーケット。ヒロヤのリクエストのマレー鉄道は満席だったので、ホアランポーン駅の近くでプーケット行きの夜行バスのチケットを買い、まだ見ぬビーチに妄想を膨らませながら、我々はバスに乗り込んだ。
 しかし、この夜行バスの旅は、昼間のマッサージの効果など吹き飛んでしまうくらいに壮絶なものとなってしまった。荒い運電はまだしも、煌々と輝く車内灯、ガンガンかかるエアコン、いちゃつく白人カップル×3。全てが我々を夜通し苛んだのであった。