3日目:バンコク

 旅に出て3日目。この頃から慣れない海外旅行で溜まっていたストレスの影響が、我々一行にも少しずつ現れだしたようだ。これまでも、ちょっとした口論などのトラブルもチラホラとは出ていたのだが、みんな中学以来の付き合いだし、もちろん大事に至ることはなかったのだが・・・
 この日は、少し遅めに起きて、郊外のウィークエンド・マーケットに向かった。マーケット自体は「でっかいフリマ」みたいな感じで何てことはなかったのだが、事件は帰りに起きた。
 どういうキッカケだったか(ほんのささいなことだったと思う)、帰りのバスの中でヒロヤとケンタロウが口喧嘩を始めたのだ。普段の2人を知る人間にしてみれば衝撃的なくらいの、かなりの剣幕だった。
 これまで、何かを仕出かすシゲオに対して他のメンバーがイラっとするパターンが多かったのだが、今回は違う。ヒロヤはこの日の夜にもシゲオと壮絶な口論をしていたし、だいぶストレスが溜まっていたのだろう。一方のケンタロウも、2度目の東南アジアということで、他のメンバーとの潤滑油になるべく気を遣っていてくれていたのだが、さすがに少し疲れてきたのかもしれない。
 もちろん、わだかまりを後に持ち越すなんていうことはなかったのだけれども、昔なじみの間柄とは言え、<異国の旅>という非日常な時間・空間を共にすることの難しさを痛感した次第である。

 さて、夜は仲直り?した5人で、カオサンの裏路地のバーで飲むことにした。軒下にプラスチックの小さなイスやテーブルを並べただけのチープなつくりだが、バーテンの真似事をしていた女の子が結構可愛かったのだ。
 最初は5人でしんんみりと飲んでいたが、酔いのまわったケンタロウやヒサシが隣のシマで飲んでいた日本人のグループに声をかけて、一緒に飲むことになった。本人は気づいていないが、<カオサン族>とも言われるカオサンにタムロする日本人の長期旅行者との歴史的な同席である。
 しかし、話はまったく盛り上がらなかった。
 そもそも、ケンタロウを筆頭とする一応「真っ当な大学生」である他のメンバーと、基本的に日本で生き辛い旅人たちに共通するバックグランドなど、あるわけがないのだ(J-POP好きと洋楽マニアの音楽談義みたいなもの、と思って頂けると分かりやすいだろうか)。
 私は一人ニヤニヤしながらチャン・ビールを飲むことができた。ケンタロウは「関東人とは噛み合わん」とかこぼしていたが、もちろんそれ以前の問題である。
 バンコク最後の夜は、こうしてちぐはぐなままに更けていったのであった。