石川周行編『世界一周画報』

石川周行編『世界一周画報』東京, 朝日新聞社, 明治41年9月
旅行者:ツアー客54名(うち1名は途中帰国、3名は現地に残留)、特派員2名ほか
渡航先:アメリカ、イギリス、ロシア、フランス、ドイツ、イタリア、スイスなど
渡航時期:明治41年(1908)3月18日から6月21日

本文

 この本は、イギリス老舗旅行会社トーマス・クック社の協力の下に行われた、朝日新聞社世界一周会主催ツアー旅行の一部始終を記録したもので、こんな時代からツアー旅行があったのかと驚かされる一冊です。ちなみに、朝日新聞社は、これ以前に日露戦争の戦跡ツアーを催行していたという実績があるようです。
 そもそものこの旅行の趣旨は、海外慣れしていない日本人に広い海外を要領よく旅行してもらい、「海外旅行って簡単だよ、安全だよ」ということを分かってもらおうということだそうです。「最短の時日と最少の費用と最快最捷の道に依て、最上の時候に世界を一周しやう」という謳い文句も、今の時代に聞けばどうかなと思いますが、当時の状況を思えば微笑ましく読めてしまいます。ともあれ、いつの時代も、ツアー旅行は旅行初心者にとっては心強い見方だったわけですね。

 そして、その行き先は、当時の国際情勢を色濃く反映するものになています。終結して間もない日露戦争の相手ロシア、締結されたばかりの日英同盟の相手イギリス、黄禍論が起こり始めたアメリカ、などなど・・・しかし、それらを色々あるんだろうけれども、「実際のところは行ってみて肌で感じないことには分からない」ということで、実際に行ってしまっているところが何とも面白いです。因みに、一行は各地で大歓迎を受けたようで、取り分けアメリカでは、ルーズベルト大統領にも面会しています(トーマス・クック社の力でもありますが)。

 そして読んでみると、慣れないがための面白エピソードにも事欠きません。船中、他の外国人乗客も交えて運動会をやってみたり、コロッセオで集合写真を撮ってみたり、エイプリルフールに大はしゃぎしてみたり、ベッドから落ちて怪我する人が続出したりと、大所帯ならではの珍道中の様子。
 また、文中には各地の風景写真だけでなく、参加者全員の肖像写真も散りばめられたりしていて、それらを眺めているだけでも楽しいです。

 ちなみに、費用負担はトーマス・クック社と朝日新聞社とが分担したらしく、朝日新聞からは2100円を出しています。50人などというツアーは、当時の欧米でも破格の人数だったらしいですが、よくもこんな大きな話を日本人が企み、そしてそれを欧米人が受け容れたなーと思います。

ルート:
横浜→アメリカ→イギリス→フランス・イタリア・ドイツ・スイス→ロシア→敦賀