小泉精三『東へ東へ』

小泉精三 『東へ東へ』 東京, 東京堂, 明治41(1908)年, 246p.

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小泉は滋賀県生まれの貿易商。彼のアメリカ留学とその際の世界一周旅行の見聞をまとめたのが本書である。
まずは明治35年5月に横浜から出航し、大西洋を横断してバンクーバー・シアトル、そしてニューヨークへ。足かけ2年余りのアメリカ滞在の後、次は大西洋を越えてリバプール・ロンドンへ。その後、フランス・ドイツ・イタリア(ベスビオ山を見て富士山を思い出し、ホームシックになったらしい)を経て再びロンドンに入り、その後は海路日本へ。途中、コロンボ・ぺナン・香港などに寄港しながら、明治38年4月に日本に帰国した。
文字通り、「東へ東へ」という旅だった。なお、アメリカ編は長らく滞在していただけあって、風俗・文化・教育などの詳しい描写が中心になっている一方、旅行者として通過したヨーロッパ編は日記風の記述となっている。
本書は、(金のある旅行者向けの)旅行案内という要素もあって、着替え、ガイドブック、旅費、土産物などTips的な記述が結構ある。中でもちょっと面白いのが、冒頭に挟み込まれた「DRESS CHART」。インフォーマル/フォーマルのディナー、ビジネスなど、様々な局面ごとに着用すべき服やその色などをチャートグラフにしてまとめられている。確かに、欧米のこの手のドレス・コードには今の僕たちも迷うこともあるわけだし、まぁ便利と言うべきなのだろうが…セレブな方々の旅行の準備は大変なのだなとつくづく思うばかりだ。
そんなセレブの小泉が「最不快」と一刀両断しているのが、チップ(「心附」)。確かに日本人の習慣からすればなかなか馴染めない旅の不文律の一つだが、100年前の金持ちの小泉にしても釈然しないものだったらしい。