高田善治郎『出洋日記』

高田善治郎 『出洋日記』 京都, 川勝鴻宝堂, 明治24(1889)年, 46p.

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本書は、イギリス・アメリカとめぐり、明治22(1887)年に帰国した高田善治郎(滋賀県出身)の旅行記である。緒言によると、その外遊の全体をカバーした旅行記を考えていて、その第一弾として横浜からロンドンへの船旅の日記をまとめた本書を刊行したという。
高田は、大阪府立商業高校在学中に広く海外を見聞したいと考えた。とはいえ、先立つものがない。そこで、同郷の有力者たちが製糸会社を起業に向けての下調べとして行おうとしていた洋行のメンバーに潜り込んだ(他に、富士谷孝雄・吉川真澄)。
出発は明治20年6月28日。見送りには、滋賀県知事の中井弘(彼にも『魯西亜土耳其漫遊記程』(避暑洞, 明治11年)という旅行記がある)もいたようだ。船は、大きなトラブルもなく、7月4日に香港、7月11日にサイゴン、7月13日にシンガポール、7月19日にコロンボ、7月29日にアデン、8月8日にマルセイユと経て、8月9日にイギリスに到達した。ロンドンで一行を出迎えたのは、領事館書記(嶋原某・荒川某)のほか、三井物産会社社長増田孝、同じくロンドン支店長渡辺某といった面々である。
高田は、残念なことに旅行記の第二弾・第三弾を出していないようである。そのため、彼の外遊がどのようなものであったのか窺い知ることはできない。しかし、後に、『独逸会話教科書』(独逸語学雑誌社, 明治43年、辻高衡と共著)『独和兵語辞書』(独逸語学雑誌社, 明治32年、藤山治一と共著)といったドイツ語辞書を著わしているところから察するに、それなりに有益なものとなったのだろう。