中井弘『魯西亜土耳其漫遊記程 巻上』

中井弘 『魯西亜土耳其漫遊記程 巻上』 東京, 避暑洞, 明治11(1878)年, 44丁.

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中井弘(1838-1894)は、薩摩藩出身で、幕末・明治の二度にわたって英国留学の経験を持ち、帰国後は滋賀県京都府知事まで務めた人物である。
明治9(1876)年、二度目の留学からの帰途、中井はオーストリア代理公使の任にあった渡辺洪基(後の東京帝大初代総長)とともに、ロシア、ドイツ、トルコ、エジプトなどを周遊して帰国した。本書はその際の旅行記だが、国立国会図書館にはその旅行記のうち上巻(英国からカイロまでの旅が記録されている)しか所蔵されていない。
本書は、「明治初期のエリートの旅行記」と呼べると思う。たとえば、中井達が各地で会う日本人は、有名人ばかりだ。企画倒れに終わったものの、ロンドンでは幕末に日本に滞在した経験を持つアーネスト・サトウ中央アジアを旅行しようという話をしていた。ベルリンでは、公使の青木周蔵駐在武官桂太郎に、モスクワでは公使の榎本武揚に会っている。また、トルコについてのコメントもエリートのそれだ。

且土国ノ旧習ニテ回教ノ人上等ノ地位ニ在ルカ故に鋭意改正ヲ行ヒ宗旨平等同権ヲ施サント欲スルニ甚タ困難ナリト知ルヘシ。蓋シ我日本ニテ頑固流カ暗ニ国家ノ進歩ヲ妨クルノ情実ト同一ノ嘆アルヲ免レス。

当時、急激に改革を進めていた明治政府の人間のコメントとしては、さもありなんといったところか。