西徳二郎『中亜細亜紀事』

西徳二郎 『中亜細亜紀事』 東京, 陸軍文庫, 明治19(1886)年, 421,270p.

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西徳二郎(1847-1912)はサンクト・ペテルブルグ日本公使館の代理公使の任を終えた明治13(1880)年、帰国に際して当時外国人の立ち入りが制限されていたロシア勢力下の中央アジア探査を申し出た。結果、西の申し出は許可され、タシケントサマルカンド、ブハラ、コーカンなどの西トルキスタン(主に現在のウズベキスタン)のオアシス諸都市を巡った。酷暑の大地を郵便馬車で駆け巡るという過酷な旅だったようだ。ロシアの勢力下に置かれてしまっていた西トルキスタンの状況は、日本にも迫りくるロシアの脅威を感じさせるに十分だっただろう。その後、シベリア・モンゴルを経て明治14年4月に帰国した。
本書は、帰国後に官命を受けてまとめたもので、不足分を明治16年のヨーロッパ出張の際に知人に照会したり、収集した様々な書物を参照したりするなど、5年の歳月をかけて執筆された。各地の単なる印象記にとどまらず、地理や歴史についても詳しく記述しているところに、西の綿密な調査の成果が読み取れる。1911年にイタリアでも翻訳・出版されたが、この事実も本書の資料価値の高さを物語るものだろう。

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タシケント(2008年5月)

サマルカンド(2008年5月)

ブハラ(2008年5月)