師岡国『板垣君欧米漫遊日記』

師岡国編 『板垣君欧米漫遊日記』 東京, 松井忠兵衛, 明治16年, 58p.

<本文>

自由民権運動の旗手として名高い板垣退助(1837-1919)は、明治15年から16年にかけて、盟友の後藤象二郎とともに欧米に外遊した。行き先は、彼の民権思想のバックグラウンドを考えれば当然なのだが、フランスである。本書は、その際の往路の記録をまとめたもの。とは言え、これが随行員と思しき人の手になっていることと、それがあまりに淡々としていて大して面白くないことと、明治15年11月11日の東京出発から、翌年3月30日のパリからの報告までしか収めていないのが残念なところだ(同様の資料に、清水益次郎編 『板垣君欧米漫遊録』(清水益次郎, 明治16年)があるが、こちらは12月23日付の報告で終わっている)。

さて、この旅行は、旅行の内容とは関係のないところで有名になってしまった。即ち、その<旅行資金>の出所である。この外遊は、板垣率いる自由党を中心に展開されていた自由民権運動を懐柔するために政府から密かに板垣に持ちかけられたものだ、ということが出発前から言われており、その是非を巡って、ただでさえ何かと問題の多かった自由党内に、更なる内紛まで生じさせてしまった。板垣外遊中にもこれらの問題はいよいよ混迷を深め、自由党の衰退へと繋がっていくのである。
そうまでしての外遊。どうせなら、かの地で得たものがわかるような詳細な旅行記を彼自身の手で残してほしかったところだ。

参考文献;
寺崎 修 「板垣退助の外遊と自由党(一)(二)」『政治学論集』22,1985,pp.29-48/23,1986.pp.75-95.