五日目:康定

 翌朝、目を覚ますとバスの出る時間の10分前(6:20)だった。慌てて支度をし、小姐をたたき起こして扉を開けてもらい、バスターミナルまでダッシュして辛くもバスの発車に間に合った。高山病を克服したことが、最終日にこんな形で証明されたのは皮肉としか言いようがない。

「理塘は、僕がこれまで通ってきた街の中で最も美しい街の一つだ」

と、4年も世界を旅してきたという同行のイタリア人旅行者が話していたこの街を、こんなに早くお別れをするのは残念だったが、こればかりは仕方ない、と自分に言い聞かせた。

 ところが、実際に峠に差し掛かると、雪が降っていないどころか、峠によっては、二日前にはあれだけ積もっていた雪も跡形もなく消えていた。乗り合わせたチベタンの親子が、峠の頂上でルンタ(紙の絵馬)の束をばら撒きながら叫ぶ「ラーギャロー!!」という声(旅の安全を祈り、感謝する儀式)が、高度4,000メートルの空に空しく響いていたのであった。

 16時すぎに、特にトラブルもなく、康定に着いた。今回の宿はバックパッカー御用達のBlack Tent Guest House(1ベッド15元)。
 その日の晩御飯は、同行の3人とチベット料理の高級レストラン阿熱餐館で、(僕にしては)豪勢な料理に舌鼓を打った。牛肉と野菜の鍋焼き炒めや、バターで甘く炒めた小麦のパスタなど、悪くない味だ(腹一杯食べて飲んで、1人35元)。そういえば、チベット文化圏は何度か旅しているが、「高級チベット料理」と呼べるものを食べるのは初めてだった。