チベット文献図書館を訪問

仕事柄、旅行先で「Library」という言葉を目にすると、どうにも気になって仕方ない。僕の同僚にもそういうヒトは多いから、これも一種の職業病の一つかもしれない。
今回のダラムサラ訪問でも、ガイドブックに「チベット文献図書館」という言葉を見つけた途端に居ても立ってもいられなくなって、早速足を運んだ。が、その日は日曜日=休館日ということで、あえなく退散。気を取り直して、その二日後に再び訪れた。

チベット文献図書館(The Library of Tibetan Works and Archives)は、アッパー・ダラムサラ(マクロード・ガンジ)から少し坂道を下ったところにあるチベット亡命政府官庁の敷地内(カンチェン・キション)にある*1。議会前の広場を見下ろす場所だ。ここまで、時間にすればゆっくり歩いて20分といったところか。ただし、帰りは登りなので、もう少しかかる。

さて、二度目のこの日は、ルンタ・ハウスで昼ご飯を食べてからだったのだが、あいにく昼休みということで少し外で待ってから中へ。入り口のすぐ脇にある案内カウンターにいた職員の方に、図書館のパンフレットのようなものはないかと尋ねたところ、在庫切れということだったので、代わりに閲覧室にいるライブラリアンに自由に質問してもらってよいという返事をもらった。その方がむしろ有難い。

入り口を入って左手にあるのがForeign Language Reference Library。カウンターにいた女性のライブラリアンが閲覧室と書庫を案内してくれた。ユーザは新聞を読んでいるおっさんだけだから時間もあったのだろう。
ここには、日・韓・中・蒙・英・露などの各種言語に跨る11,254冊もの仏教・チベット関係の図書や雑誌、新聞などがあり、閲覧・複写・レファレンスなどのサービスを受けることができる。ちなみに、数百冊にも登る日本語資料の整理は、近辺の在住日本人のボランティアにお願いしているとのこと。

次いで、その向かいにあるTibetan Books & Manuscripts Libraryへ。ここでは、事務室エリアにいたお坊さんが、嬉しそうに、そして少し誇らしげに書庫を案内してくれた。7年ほど前に近くのゴンパからここに「異動」になったらしい。
書庫には、1959年以前にも遡る政府公文書を含めた109,881ものチベット語文書が収められており、ここでも一通りの図書館サービスが受けられる。中には、チベットからはるばる運んできた手書きのチベット大蔵経も含まれているそうで、ここ数年は、収集だけでなく電子化にも注力しているという。
なお、二階は1000点以上ものタンカなどの美術品を収蔵する博物館の展示室や仏教哲学セミナーの会場、そして事務室になっている。

そもそも、この図書館は1970年、ダライラマ14世の発案により、チベット文化の保存と普及を目的として他の施設と同様に多くの寄付とチベタンの労働の下に、建てられた*2。そして現在、資料の増加に対応するために、寄付金を募って施設の拡張工事も行っているようだ。
すでに紹介した博物館・ライブラリー・文書館といった機能/サービスだけでなく、他にも、1976年から亡命チベット人の生の声やダライラマの説法を対象にしたオーラルヒストリーの収集や、館内での仏教クラスの開催(僕が訪れた時も参加者と思しき外国人を何人か見かけた)、出版翻訳などの取り組みも行っていて、チベット文化センターとでも呼べそうな積極的な活動が印象的だ*3。昨今、日本の図書館界では「MLA連携」(Museum-Library-Archives)や出版事業への展開といったことが注目されているが、この図書館は既にそういったことを実現しているとも言える。

一時間ばかり館内をウロウロしてから、僕は再び急な坂道を登ってホテルに戻った。同業者たちとのささやかな出会いに感謝しながら。

*1:本記事の作成に当たっては、同館のWebサイトの他、Library of Tibetan Works & Archives Newsletter vol.1(2008)を参考にした。

*2:似たようなものとしては、シッキムのチベット研究センターやデリーのチベット・ハウスなどがある。

*3:面白いところでは、Science for monksなんていう取り組みもやっている。