柳本浩市展に寄せて

柳本浩市展「アーキヴィスト―柳本浩市さんが残してくれたもの」に行ってきた。

柳本さんと最初にお会いしたのは、「何に着目すべきか」というイベントの壇上。友人に声をかけてもらって何の予備知識も無いままに柳本さんと対話したのだが、自分の体調が良くなかったこともあり、その場は消化不良に終わってしまった。正直、何を話したのかももう覚えていないが、「集める」「残す」ということの意味について、とても話の合う人だと思った記憶がある(展示場で販売されている冊子に、この時の対話を柳本さんが振り返るインタビューが掲載されている)。

その後、(とある集まりで顔を合わせて挨拶したものの)しばらくご無沙汰してしまっていたところにメールをもらい、柳本さんの対談をすることになった。対談自体は、自分としても仕事やその周辺の活動ばかりでなく、大学時代に歴史学を勉強していたことまで芋づる式にリンクしていく、非常に刺激的なものだったのだが、同時に、そこで初めて、コレクター、キュレーターそしてビジネスマンとしての柳本さんを知ったのだった。

共創がメディアを変える コミュニケーションで紡ぐ新しい電子出版

共創がメディアを変える コミュニケーションで紡ぐ新しい電子出版

  • 作者: 柳本浩市,田宗道弘,福林靖博,SPREAD(小林弘和山田春奈),西澤明洋,篠原一彦,内藤友規,和田晃一,望月明人
  • 出版社/メーカー: 中村堂
  • 発売日: 2014/11/28
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログ (1件) を見る
自分の本業であるライブラリーの視点から、ぼんやりと「アーカイヴ」と「キュレーション」ということはそれまでも考えていたのだが、そこに決定的に欠けていた「マネタイズ」という視点をもたらしてくれるのではないか―そう思った。そこで、自分が主宰する小さな集まりに来てもらった。そこで、小さい頃からの収集癖と、ビンテージ・ジーンズやエアマックスなど集めたモノに「文脈」という付加価値を付けてビジネスを生み出してきたその手業の一端を紹介してもらった。
そして、ぶっ飛んだ。世の中にはこんな人がいるのか、と。

確かに「アーカイヴ」を「キュレーション」して「マネタイズ」している。そこにタネも仕掛けもなかった(ように見えた)。そこに、柳本さんがいただけだった。倉庫の年間維持費だけでひっくり返るような金額が必要になるほどのコレクションを使いこなせるのは、柳本さんだけなのだった。この人と一緒に、新しいライブラリーでありアーカイブを作れるのではないか…そう思った矢先の訃報は、本当に残念だった。

柳本さんのあのコレクションはどうなってしまうのか。有名なデザイナーの作品など、そのものに価値のあるコレクションはともかく、それ単体では「ゴミ」とされかねないガムの包装紙やチラシといった、柳本さんという稀代の目利きが介在して初めて価値の出てくるコレクションはどうなってしまうのか。コレクターの没後、そのコレクションが廃棄/散逸してしまうことは珍しくない話だ。
柳本さんを「ものを収集し、整理し、その価値を見きわめてアーカイヴをつくり、未来へ発展させていく人」、すなわち「アーキヴィスト」としてとらえ、その膨大なコレクションの一端を見せてくれる今回の展示は、その脳内イメージをぶちまけたような素晴らしいものだった。

しかし、未だ扱いの定まっていないらしいそのコレクションの行く末を思って気が重くなったのも事実だ。アーカイブそのもののビジネス・モデルが成立している(ように思える)David Bowie Archiveとはわけが違う。ファイリングのざっくりしたラベルを見れば分かるように、メタデータも整備されていない―そもそもこの分量を個人で整えるのは土台無理な話だ。このような展示は、恐らく最初で最後の機会になってしまうのではないか。
柳本さんは自らのコレクションをデジタル・アーカイヴ化して多くの人に開き、そこをプラットフォームして人工知能技術の力も借りながらキュレーションして新たな価値を生み出していくことを構想していた(上述した僕との対談も、そのコンセプトブックに載せるために行われたものだった)。それはもしかしたら、自分がいなくなった後でもコレクションが、少なくともアーカイブ上では散逸することなく維持され、そして活用されることまで考えた上でのことだったのではないかと、僕は思っている。だから、その構想が頓挫してしまったことが残念でならない。
展示に先立ち、展示の実行委員会の方から、柳本さんの残した未整理のコレクションと一緒に展示する、「アーカイブ」という言葉についての140字のコメントを欲しいというリクエストをいただいた。少し迷ったが、僕なりに「アーカイヴ」と、それと展示のテーマである「アーキヴィスト」という言葉を、柳本さんとの対話を思い出しながら、再定義してみることにした。

柳本さん、安らかに。

柳本浩市展
会期: 2017年4月29日(土)− 6月4日(日) ※会期中無休
時間:12:00-18:00
会場:six factory(約250m2)
東京都目黒区八雲3-23-20
入場料:一般500円、大学生200円(学生証提示)、高校生以下無料
主催: 柳本浩市展実行委員会
協力: 株式会社 良品計画