「歴史学コミュニケーション」に関する公開書簡
先だって先生から、私のblogエントリー「内陸アジア史学会50周年記念公開シンポジウムに参加」を受けて、「言いたいことがあれば知らせるように」というお言葉を頂いたのですが、漠然と頭の中にあった事柄をなかなか言葉に置き換えることができなかったために、お返事できませんでした。この数カ月で少しまとまってきたので、遅ればせながらそれらについて書いてみたいと思います。
シンポジウムのときに、私の頭の中に浮かんでいたのは「科学コミュニケーション(サイエンス・コミュニケーション)」ならぬ「歴史学コミュニケーション」という言葉でした。最近、岸田一隆さんの『科学コミュニケーション』という本を読んだのですが、そこでは次のようなことが述べられていました。
- 科学コミュニケーションにおいて、知識(科学の内容)の伝達は本質的ではない。方法や世界観(方法としての科学。具体的には、研究活動や科学者の人生、世界を理解するためのストーリー)を共感・共有してもらうことがポイントになる。
- コミュニケーションの対象として最優先されるのは、大学卒業以上の学歴を持つ「知的市民」層(成人学習者)。
- 科学それぞれの「好き嫌い」や「面白さ」ではなく、対象となる人々にとって人類全体が目指す持続可能社会にとってなぜ「無関心」であってはいけないかということを伝えるべき。
科学コミュニケーション?理科の<考え方>をひらく (平凡社新書)
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とは言え、こんなことを今更私が述べるまでもないことかもしれません。大阪大学では、「21世紀懐徳堂」プロジェクトにおいて市民講座やサイエンスカフェを既に展開していますし、コミュニケーションデザインセンターではそのものズバリな研究・活動が行われています。桃木至朗先生が著書の中で言われているように、様々なコミュニケーションに対応するように役割分担をしていく中で、こういった「知的市民」層向けのアプローチを担う方を養成していけば良いのだと思います*1。
わかる歴史 面白い歴史 役に立つ歴史 (阪大リーブル013)
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しかし、これも今更私のような部外者が言うことでもないのかもしれません。若手の研究者の方は、そういったことを身を以て感じておられるはずです。(業績・功績を残された方々の声も大事ですが)こういった方々の声がもっと表に出るようにすることも、大事だと思います。
最後に、図書館でもお手伝いできることを幾つか書いて終わりにします。(シンポジウムでも触れられていましたが)学術機関リポジトリ/オープンアクセスの一環として学会論文をインターネットで読めるようにするというのは、一番有効なものだと思います。また、カフェ/セミナー形式でイベントを行う場合には、その会場の提供もできると思いますし、そういったイベントと連携した資料展示等もできるでしょう。
以上、雑駁ながらつらつらと思ったことを書きました。何かのご参考になれば幸いです。
(2011/4/23追記)
桃木至朗先生が「ヒストリー・コミュニケーター」として、私のエントリーよりはるかに有益なことを書かれていますのでご紹介。僕も大学院時代、もっと勉強しておけばなぁ…
- 「ヒストリー・コミュニケーター養成へ−阪大歴教研の開催趣旨(3)」ダオ・チーランのブログ・パシフィック(2011/4/10)
*1:最近出た佐々木俊尚著『キュレーションの時代:「つながり」の情報革命が始まる 』では、faebook等のインターネット上のグローバルの緩やかなプラットフォームを、(杉山正明先生の著書等に拠りながら)モンゴル帝国による緩やかなユーラシア大陸の統治になぞらえています。当否はともかく、これからの社会を考える上で、歴史学が示唆を与えることができる一つの例だと思います。
*2:「武内紹人「チベット文明のユニークさと普遍性」で紹介しましたが、武内先生のエッセイは非常に印象に残っています。
*3:この辺りについては、「「東洋史学の危機」と第3回ARGカフェ&フェスト」でも触れました。