鼎談「まちづくり・観光・図書館」

2010/7/4の第57回図書館問題研究会全国大会in草津*1で行われた鼎談「まちづくり・観光・図書館」*2は、何はともあれここで触れないわけにはいかないだろう。以下、中継を後追いして気になったことをつらつらと書いてみたい。

近年、図書館での観光展示や観光パンフレットの交換などが盛んになり、観光客が図書館を利用する光景も当たり前になっています。観光施策の中に図書館はどのような形で関われるのでしょうか。一方、まちづくりを通して図書館が果たす役割や住民への働きかけも重要になっています。観光×図書館×まちづくり。図書館が触媒となってどんな素敵なものが生まれるか。各分野で活躍している三人が熱く語ります(パネラー:大宮登(高崎経済大学教授)岩崎比奈子(日本交通公社)/嶋田学(東近江市立図書館))。 ※公式ホームページより転載。

鼎談の冒頭で嶋田さんから先行研究文献や様々な事例を紹介した*3後は、パネリストそれぞれの持論を展開する流れ*4
昨今の従来の団体客向けの箱モノ(大型旅館や娯楽施設)観光ではない「生活観光」*5「着地型旅行」*6の登場定着という流れを前提にして、これまでバラバラに考えていた「街づくり」と図書館を結びつけようというのが今回の鼎談の肝だと思う。大宮さん・岩崎さんともに、「これまで図書館なんて考えたこともなかった」と言っているが、これが現状の全て。つまり、「観光振興の計画に図書館が入ってこなかった」ということだ。
個人的にはよほどのことがない限り図書館自身が観光資源になるということは難しいと思っているが、それよりも鼎談でも指摘されていたように、

  • 「観光」という切り口から住民を巻き込んだ観光資源(或いは旅行商品)づくりに図書館が関われるか
  • 観光客に図書館としてどういう情報サービスが提供できるか*7

という二点に尽きるのかなと思った*8。特に、岩崎さんの「地域観光資源の発掘・保存の持続的な拠点としての図書館に期待する」という指摘は非常に大事。図書館の持つハード(場)とコンテンツ(良質(なはずの)資料)を活かす案内人(司書)の存在と、人を結びつけるということこそが図書館としてできる役割だろう(こう書くと、観光に限らずどんな切り口でもこういう結論になりそうな気がしてくる*9)。逆にこういうことができていなかったからこそ「観光振興の計画に図書館が入ってこない」」わけだ。
ともあれ、鼎談でも指摘されていたとおり、住民サービスとしての図書館ばかり強調されすぎた時代はもう過去のものとして、「定住人口が減る中で交流人口がどれだけいるかが地域活性化の指標となる」ということを自覚した上で、パンフレットを置くだけより一歩先のサービスを「ひたすら実践する」というフェーズにあるということだろう。

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  1. 観光と図書館の融合の可能性についての考察(2010/5/1)
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  3. Tokyo's Tokyo(2009/3/4)
  4. 旅の図書館(2009/2/12)
  5. 南益行の「観光図書館論(2009/1/27)
  6. 旅人のための図書館を夢想する(2008/12/27)
  7. 蛇足 「八重山図書館考」(2008/10/10)

*1:会場となった草津の町立図書館は、観光客向けのサービスも展開している

*2:USTREM記録動画

*3:鼎談の冒頭で以前紹介した南益行さんの「観光図書館論」松本秀人さんの「観光と図書館の融合の可能性についての考察」にも言及されていた。

*4:「蛇足 「八重山図書館考」(2008/10/10)」で言及した石垣市立図書館では旅行者向けの資料貸出サービスを始めているらしい。Webサイト等では確認できないが。

*5:「地域の生活環境の再評価と観光による地域の活性化」(「古都奈良における生活観光」より。)

*6:目的地に所在する旅行業者が企画するパック旅行(募集型企画旅行)。(時代を読む新語辞典より)

*7:この場合は、Webサービスを除いて、立地条件が良い=「観光につながりやすい図書館」というのが絶対前提条件。

*8:図書館自身を生活観光における地域観光資源として位置付けるのは、質の高い住民サービスを続けていればよいので、ここでは取り上げない。

*9:岩崎さんが「その地域のことを調べる場合は、地域の図書館よりも郷土史研究家にまずアプローチする」と言っていたのも印象的だった。「地域資料」としてこういった人を図書館が繋ぐべき存在なのかもしれないということと、司書が「案内人」としての役割を果たせていないということを示していると言えるだろう。