三上久満三『欧米新旅行』

三上久満三 『欧米新旅行』 東京, 精華堂書店, 明治41年, 179p.

<本文>

著者の三上久満三なる人物については、詳しいことは全くわからない。ただ、明治30年代の前後、アメリカに8年、ヨーロッパに3年滞在したことが、本書を読めば分かるばかりだ。
三上の関心の一つには、エール大学オックスフォード大学ケンブリッジ大学などの訪問記が散りばめられていることからも想像がつくように、<教育>にあったことが推測できる。ここでは、本書の末尾に附せられた「学校以外の教育機関 」という、どこかでの講演録に注目したい(この講演も、何時・何処で行われたものかも分からない。読むと、<教育>がテーマで、大隈重信も同時に登壇していたことは分かるが…)。

ここで三上は、文明諸国に共通して整備されている「国民教育」のためのインフラとして、第一に図書館を挙げている(もちろん、既に日本にも存在したのだが、「幼稚不完全」とのこと)。

  • アメリカ議会図書館をはじめとする大都会の大型図書館や、地方の巡回図書館を紹介。
  • 書籍の保存・選択・整理・見出し付けを行う「図書管理員」(Librarian)を「一種専門の技術」を持った専門職として紹介。
  • カード目録が完備されていて開架式の書架から容易に本の探索が可能なこと、専門家(レファレンス・ライブラリアン)のサポートがあること、貸出が可能なこと、などの最先端の図書館サービスを紹介。

と紹介している。当時の彼我の差が今はどうなったのかのコメントは避けるが、100も年前に図書館を国民の「大学」に、図書館員をその「教授」に準えた彼の先見性は、いま一度注目されてもよいのではないだろうか?