松本真彦『旅ころも 一かさね』

松本真彦 『旅ころも 一かさね』 宇都宮町, 吉田亀次郎, 明治23(1890)年, 11丁.

<本文>

松本真彦(虎蔵)は、宇都宮の人である。生年ははっきりしないが、元号が明治になる少し前の頃に生まれたようだ。
恩師の橘道守によれば、彼は幼い頃から勉学に励んだという。同級生には、後にグラスゴー大学を首席で卒業した眞野某や、ベルリンに留学した山内某、らがいたらしい。海外に雄飛した優秀な友人たちと同様に、松本もサンフランシスコの商業高校へと進み、そして卒業後はニューヨークに移った。明治22年ことである。
サンフランシスコからニューヨークへの道中を、松本は紀行文にまとめた。文学に傾倒していたらしく、ひどく抒情的な内容だった。彼は、完成した原稿を郷里の知人である吉田亀次郎に送った。序文は橘が綴った。
そうして世に送り出されたのが、本書である。

旅衣 かさねしうさも うれしさも 我父母よ いつか語らん

これ以降の松本の記録は、見当たらない。彼が異国で体験した楽しかったことや辛かったことを、郷里の両親に話すことはできたのだろうか?