竹富島→石垣島→波照間島

竹富島というのは、舗装されていない白い砂の路地に、珊瑚の黒い壁、そして瓦葺の屋根の上にはシーサーという具合に、コマーシャルで見かけるステレオタイプ的な沖縄のイメージを具現化した、誤解を恐れずに言えば、観光の島だ。
朝にはおばぁたちが路地を掃き清め、昼間はその路地を、観光客を乗せた牛車がゆっくりと練り歩き、夜になれば少しお洒落な居酒屋に、観光客やおじぃたちが集まる。
そういうわけで、俺も同宿の霞賭鵜君と、居酒屋にいた自治会のメンバーと思しきおじぃたちを相手にオリオンビールを飲んでいた。つまみは蛸の唐揚げにミミガー
色々喋っていたと思うのだが、なにぶんしたたかに酩酊していたので、よく覚えていない。ただ、2人のおじぃは、「さてと、これから会合じゃ」とか何とか言いながら、軽トラで去っていった。
「この島の者はみんな、何でも金、金、金。金に走っとる」
店の奥で独り飲んでいたおじぃがボソッと発したこの言葉だけが、いやに耳に残っている。

八重山の民宿というのは、どうも自分の旅のペースに合わない。
事前に電話で予約しなければいけないし、ご飯の時間も決められているし、皆で一緒に食べなければいけないし、とまぁこんな具合だ。
であれば、予約しなければいいし、素泊まりにすればいいし、外食すればいいし、とまぁこういう反論も容易に成り立つのだが、この時期だと宿が満室なことも珍しくないという話だし、島によっては外食できるような店があまりなかったりするし、なかなかうまくははいかないのがジレンマだったりする。
しかしやはり、ぶらりと島に渡り、気侭に宿を選び、好きな料理をつまみに酒を飲みたいものだ。
そういうわけで、翌朝、離島桟橋のチケット売り場で、俺は前に並ぶ二人連れが買ったのと同じチケットを買うことにした。宿も事前に電話予約しない。宿がなければ、日帰りでよいではないか。こう書くと大層な感じがするが、本来はこの様に気合を入れてやるものでもない。
とにかく結果として、俺は波照間島へのチケットを入手し、そしてその1時間後には波照間島に降り立ったのであった。

次は、宿を探さなければいけない。予約していた民宿の迎えの車に乗り込んでいく他の客を横目に、俺は島の中央部へと歩き出した。
八重山の島で一つ不思議だと思うのは、どの島も、集落が海辺や港の側ではなく、島の中央部に位置していることだ(島の殆どがジャングルになっている西表島は少し違うが)。そのため、港から集落までは微妙に遠い。
40分近く歩いたところで、サトウキビ畑の向こうに民宿らしき建物が1軒見えてきた。なかなか良さそうな雰囲気だ。前に立っていたおじぃに早速、「部屋はありますか?」と聞いてみる。「いや、今日は満室である」という答え。まぁそういうこともあるだろう。
もう暫く歩くと、集落らしきところに入ってきた。まず目に付いたのは、長期滞在の貧乏旅行者向けの素泊まりの安宿。これもいいと思って、バイトの少年に聞いてみる。「部屋はありますか?」「いや、今日は満室である」これも、仕方ない。
更に奥に行くと、少し鄙びた感じの民宿が目に入った。扉を開けて声を張り上げること数度、漸くおじぃが顔を出した。「部屋はありますか?」と聞こうとしたが、「病気で今日は客をとらん」と機先を制された。これにはさすがに困った。
更にまた奥に行く。集落の外れに、民宿が一軒あった。おばぁに「部屋はありますか?」おばぁはちょっと困った顔をしていたが、結局オッケーしてくれた。その躊躇の理由が何なのかは未だによく分からないが、アジアの安宿であれば無理にでも客を取るのに、この辺りが沖縄ならではといったところだろうか。
気付けば、港についてから1時間半も経っていた。
宿探しについては、ひとまず満足したが、この集落にはレストランも無いようだから、食事は妥協せざるをえなかった。「2食付でお願いします」と、俺は申し出た。