小浜島-竹富島(3/6)


 3日目。この日の天気は、前日の予報では曇り時々晴れだったので、竹富島に日帰りツアーに出かけることにしていた。(あまり納得できない面もあるが)ツアーの方が安価で便利というか楽とは言え、時間や訪れる場所も決まったようなお仕着せ感は苦手なので、子連れでなければそもそもツアーに申し込むこともなかっただろうと思う。けれども、この「楽」は、今の僕たち夫婦には何者にも代えがたい。子どもがいると、旅における優先順位は本当に変わるものだ。
 7時過ぎ、妻と娘をカートに乗せてレセプション棟へ向かう。ビュッフェスタイルの朝ごはんは食いしん坊の娘も大のお気に入りのようで、出かける準備をしていると、待ちきれずに靴を履いて親を急かすありさまだ。実際、豊富な種類のおかずが用意されていて、数日滞在しても飽きないようになっている。食後、妻と娘を乗せてホテルの敷地内をドライブ。よく整備されていて、とても気持ち良い。プライベートビーチまで足を伸ばして子どもを遊ばせたり、ハンモックに寝転がってみたり、山羊や兎が飼育されている小さな動物園を覗いたりとしているうちに、出発の時間になった。
 集合場所のホテルのレセプションに行ってみると、ツアーの申し込みは僕たちの他には、関西から来たと思しき中年のご夫婦一組のみ。これだと気兼ねなくのんびりできそうだ。小浜港までホテルのバンで行き、そこからは石垣港経由の竹富港行の船に乗り込む(ここで石垣で途中下船できないのは玉に瑕なのだが)。一昨日とは打って変わっての晴天の下、海はきれいなエメラルドグリーンに染め上げられており、船旅の気持ち良さも五割増しである。海に見とれているうちに、40分もせずに船は竹富港に到着した。
 僕自身、竹富島も二度目の来訪となる。白砂の路地と黒いサンゴの壁に赤茶色の屋根瓦、そして青い空。美しい場所だったので、もう一度訪れたいと思っていた場所だ。前回はコンドイ浜で泳ぎ(砂浜に寝ころび)、西の桟橋で夕陽を眺め、そして居酒屋でタコのから揚げを肴にオリオンビールを飲み干しただけだが、今回は違う。なぜならツアーだからだ。
 まずは、ガラスボートでサンゴ礁観察。ガラスボートとは、船の底がガラス張りになっていて、そこから海底のサンゴ礁が観れるという代物だ。ホテルのレストランにある水槽の魚が実はこ旅最大のヒットだったりする娘を考えれば、乗らないわけにはいかない。このあたりはサンゴ礁のせいで水深が浅く、なのですぐ下にサンゴ礁を観ることができるので娘も大喜びだったのだが、一つきをつけなければいけないことがある。それは、移動中に海底を観すぎないことだ。船酔いしてしまうから。スタッフさんがそう警告していたにも関わらず、妻はしっかり船酔いになってしまい、はしゃぐ娘を抱きかかえる血色の悪い母親という何ともシュールな写真を残すことになってしまった。
 次は、島内ドライブ。と言っても、やたらアンニュイな声のおばさんのガイドを聞きながらカイジ浜経由で集落まで行ってくれるだけだが(ちなみに、カイジ浜ではしっかり星砂の小瓶を買い込んだ。)、港から集落まではここも結構な距離があるので、公共の交通機関がほとんどない島にあっては、この車の移動というのは本当にありがたい。集落に入ったところで90分の自由時間。ここで、僕たち家族はソーキソバの昼食。記憶があやふやになっているけど、恐らく7年前と同じ食堂だったような気がする。
 そして、最後は水牛車に揺られての集落めぐり。と言っても、歩けばものの10分くらいの距離を、ベテラン水牛"サブちゃん"に引かれて30分くらいかけてゆっくり周るもの。金や時間の無駄などという野暮なツッコミはせずに、おっさんの歌う「安里屋ユンタ」を聴きながらのんびりと竹富の集落を味わう。気づけば、娘は僕の腕の中で爆睡していた。水牛車が終われば、このツアーもあとは帰るだけ。子連れでのツアー参加は、非常にコストパフォーマンスが良いということが、よく分かった。
 さて、来た道をなぞるようにホテルに戻ったのは、15時少し前。"サブちゃん"に引かれて眠った娘は、結局ホテルに着くまで目を覚まさなかった。夕食は、前日とは別の居酒屋を予約していたが、それまで暫く時間があるということで、娘を妻に託して、僕はジョギングに行くことにした。この日は少し長めの距離を走ろうということで、島の西端・細崎までの往復コース10km程度か)。細崎にはでかいマンタのオブジェがあるらしいので、それを一目見て戻るのだ。
 走りだしは快調。昨日のジョギングである程度は走る感覚も戻ってきているし、何よりドレッドミルや皇居一周と違ってタイムを気にせずにのんびり走れるので、アップダウンが繰り返される結構ハードなコースではあるものの、極めて爽快…。が、ほどなく嫌な予感。急に風が生暖かくなり、雨の気配が漂いだした。体内時計的にもう10分も走れば細崎に到着できそうな感じだったので、何とか持ってくれるかな、と思ったものの、その期待はあっさり裏切られた。ちょうど細崎の集落に到着して
「あ、マンタ!」
と声に出した瞬間に、雨が降り出した。こうなると已むを得ない。マンタにそれ以上近づくのは諦めて、来た道を引き返した。しかし、完全に判断が遅れてしまったようで、ほどなく雨は豪雨となった。そこからホテルまでの20分余り。その間、僕を追い越して行った車の窓から憐みとも激励ともつかない何とも言えない視線を、忘れることはないだろう。
 ホテルに戻ってシャワーを浴びてから、しばらく本を読んだり、子どもと遊んだりしていると、もう居酒屋からの迎えの時間だ。この日も娘はポテトフライに焼きソバにモズクの天ぷらにと、相変わらずの食べっぷりでご満悦の表情を開陳し、そして僕たち夫婦もオリオン生ビールに、泡盛に、梅酒にとしっかりアルコールを堪能した。そして、やはり19時半にはお会計となった。
 そんなこんなでホテルに戻って風呂に入って暫くすると、娘はすぐに寝てしまった。気のせいか、こちらに来てから、素直に寝るようになった。親としては、これほどありがたいことはない。その分大人は、オリオンの缶ビールと読書を愉しむことができるのだ。