小浜島-石垣島(4/6)


 小浜島の滞在も早くも折り返し地点を過ぎた。4日目のこの日も、昨日に続いて薄曇りの天気で、過ごしやすそうだった。朝からいつもものように敷地内をドライブしたり、ビュッフェの朝食を食べ散らかしたり、ハンモックで寝ころんでみたり、洗濯したり(各宿泊棟に洗濯機と乾燥機が備え付けられている)しているうちに、出かける時間になった。この日は、石垣島に渡る予定だった。
 妻は特に南の島に思い入れのある人ではないので、今回の旅行に際して、子どもの面倒をみやすい環境であれば…という以外の特段の注文はなかった。けれども一つだけ、石垣島にあるカフェに行きたいというリクエストがあった。何でもそのカフェは、地の野菜をふんだんに使うことで評判らしい。「家族接待」という看板を掲げる以上、行かないわけにはいかない。調べてみると、離島桟橋からタクシーで5分もかからない場所にあるとのこと。そんなわけで、昼ごはんをこのカフェで食べて、その帰りにお土産でも買ってこようということになった次第である。
 10時にホテルを出て1時間と少しで、件のカフェに到着した(船の時間に合わせた送迎と離島桟橋からのタクシーを活用すれば、この辺りの移動はとてもスムーズだ)。内地からの移住者が経営しているのだろうか、この辺りには似つかわしくない垢抜けた造りのカフェは海に面して建っているので、台風のときなどは大変だろうなと思うが、こういう日はむしろ気持がよい。建物は吹き抜けで、大きな窓からは外の光をふんだんに取り込んでいるので、中は明るくて開放的だ。ロフトになった2階のソファに腰を降ろして、階下から聞こえてくる近隣のママさんたちの賑やかなお喋りを聞きながら、優しい味の野菜料理とオリオンの生ビールを堪能した。家族みんなが大満足の時間になった。
 食後は、再びタクシーをつかまえて、離島桟橋から少し歩いたところにある公設市場へ向かった。市場といっても、多分に観光客向けのお土産を意識した魚や肉の専門店が集まっているだけではあるのだが。ともあれ、そこで土産用に石垣牛のハンバーグやらソーセージやらをたんまり買い込んで、東京の自宅に配送してもらうことにした。これで、お土産購入の第一弾が完了。第二弾は、市場と同じ通りにある大きな土産物屋さんで、泡盛やらお菓子やらをこれでもかという位に購入し、やはり自宅に配送してもらった。ともにフルタイムで働き、保育園に通わせる子どもがいて、そして人並みに付き合う家族・親戚・友人を持つ夫婦となれば、お土産購入にそれなりの金額を投入することは不可避である。ちなみに、自宅用には(ハンバーグやソーセージのほかに)泡盛、肉みそ、ラー油などを購入した。
 ところで、この石垣島行きの最大の誤算は、この日が月曜日だったこと。石垣市立図書館を訪ねたかったということは、1日目の日記にも書いたが、カフェや土産物購入のために石垣島に行く際にはリベンジを…と思っていただけに、殆どの図書館が閉館してしまう、そして石垣市立図書館もご多分に漏れずに閉館してしまう月曜日では、如何ともし難い。結局、買い物を終えた後は大人しく2時過ぎの船で小浜島に戻った。娘は、船で再び眠りに落ちた。やはりこの揺れが心地よいらしい。
 買い物の次は、ジョギング。ホテルに戻ってすぐに着替えて飛び出した。この日は、シュガーロードから集落を突っ切って大岳へ向かうコース。昨日のように雨が降りそうな気配もないので、のんびり走ることにした。3日目ともなれば、さすがに足の運びも軽い。集落を抜け、大岳の周りを流して、そこから港に向かって真っすぐに下っていく。この道は、真っ直ぐに大海原に向かって走っていくような感覚に陥るのが堪らない。港を横切って、そこからホテルまでは車で見慣れた道(けれども、(比較的)車が多く、そしてアップダウンも激しいので、少し消耗してしまった)。この日も1時間近く、約10kmのジョギングを楽しむことができた。
 シャワーで心地よい汗を流した後は、子どもと遊んだり本を読んだりと、夕食までのリラックスタイム。読書はというと、順調に『テンペスト』の上巻を読破し、この日の朝から下巻に進んでいた。ベランダにソファを出して、海風に吹かれながら小説に没頭するということが、どんなに贅沢なことなのだろうか。

テンペスト 下 花風の巻

テンペスト 下 花風の巻

 夕方、娘を肩に乗せて敷地内の散歩に出かけた。僕たちの宿泊棟から西の方に歩いていくと、森の向こうの海から心地よい風が吹き上げてくる。娘と二人春の夕方の柔らかな日差しと風を受けながら歩くこの瞬間こそ、この家族旅行のハイライトだったに違いない。
 この日の夕食は、二日続いた居酒屋通いはやめて、ホテルの売りの一つだというビュッフェを予約していた。(初日に石垣牛のハンバーグを堪能したとはいえ)このホテルの売りを楽しまないわけにはいなかいということもあるのだが、それ以前にこの日は、何でもこちらの人たちの先祖供養の日とかで、多くの飲食店が閉まるということを聞いていたのだ。 
 このビュッフェがすごかった。肉に魚にフルーツにと、あらゆる食材がこれでもかとばかりに並べられたその「絵」は圧巻の一言。しかも、どの料理も素晴らしい。無論、値段もそれなりに張るのだが、今回ばかりはしょうがないかな…と思わせるには十分な内容だった(一度で十分だけど)。とは言え、どんなに素晴らしい食事でも、子どもの集中力は90分も持たない。西表島の向こうに夕陽が沈んでしばらくすると、娘は部屋に戻りたい(そして、風呂で遊びたい)モードに入ってしまった。ホテル内だったらもう少し持つかなという両親の淡い期待は見事に打ち砕かれ、この日も部屋飲みとなったのだった。