「パスファインダー」極私的まとめ

某MLでパスファインダーについて長めの投稿をしたので、大幅加筆修正して転載します。

パスファインダー*1について、色々な論点が提示されていますが、自分の考えと少し違うところもあるので、まとめておきます*2。全国の図書館でパスファインダーを作りましょう!というのが目的ではありません。あくまでも論点整理です。

リサーチ・ナビがあれば十分、という話。

2009年5月に公開された国立国会図書館(NDL)のリサーチ・ナビは、従来の調べ方案内や各種領域のホームページやデータベースに加え、NDL-OPACレファレンス協同データベース、果てはwikipediaもまとめてナビゲーションするサイト*3パスファインダーを単純に羅列するだけではなく、関連するテーマなどに沿って書誌情報などとまとめて提示してユーザをナビゲートする*4ということで、特に情報探索の取っ掛かりに使えるサイトだとは思います。
これを踏まえて、「これがあれば、各図書館が少ない資源を割り当ててまでパスファインダーを作る必要がないんじゃない?」という意見も出てきています。確かに、一理ある。
けれども、当然ながらNDLが全てを網羅できるわけではないでしょう。特に、「地域情報」というのはNDLが突っ込んでこれないところだと思います。例えば、愛媛県立図書館が作成した「企業情報を探すには・・・(愛媛県内)」。NDLでは「企業・団体リストの調べ方」「地域別の企業・団体リストを探すには」くらいまでです。やはりその地域のことはその地域の図書館がというのがあるべき姿と考えれば、NDLが「総論」、公共図がそれぞれの地域の「各論」という形で棲み分けるというのがよいと思います。

パスファインダーなんて『ブックリスト』十分、という話。

最近、ソーシャルブックマークを活用した郡山女子大学パスファインダーCiNiiAPIを活用した結城市関連論文ナビゲーターなど、集合知的に、あるいは機械的に情報源リストを作成する仕掛けが作られています。これらは非常に面白い取り組みだと思います*5
これを踏まえるわけではないのですが、「パスファインダーなんて大袈裟なことを言わないで、ブックリストを作ればいいんじゃない?」という声も聞こえてきます。確かに、取り組みの敷居を下げるという意味ではそれでもいいかもしれません。
けれども、最終的にはそれでは十分ではないと思います。パスファインダーの「売り」は、つまるところ図書館員の「付加情報(価値)」だと思います。リストだけでは価値はないとまでは言いませんが、それらへの「解題(解説)」の有無というのは非常に大きなポイントではないでしょうか。

パスファインダーを作ると何かいいことがあるのか、という話。

何でパスファインダーを作るのか?というのは、よく聞かれる設問です。で、その際によく答えとして出されるのが「作れば楽になる」ということ。パスファインダーなるサービスが考案された際の狙いとして、「よく聞かれることを先取りしてまとめてサービスを省力化・均質化する」というのがあるので、そういう背景を考えれば、「パスファインダーを作ることの恩恵の第一は省力化」という話になるのは首肯できなくはありません。
確かに、そういう面もあるかもしれません。
が、色々と話を聞いていると、必ずしもそればかりでもないようです。知人は「パスファインダーを作れば作るほど、問合せは増え、その内容は高度化する」ということを言っていましたが、僕もそう感じます。ということで、むしろ、「図書館ではこれだけ出来るんだ」というPRの手段としてパスファインダーを捉えるべきではないでしょうか。

パスファインダーとユーザ・ニーズの乖離、という話。

パスファインダーを作るとなった場合、「なぜそれを作るのか?」というのは大きな問題だと思います。作り手の「思い」「経験」「勘」といった漠然としたものではなく、きちんとした「エビデンス」に基づいておきたいところ。でないと、必要とされていないものに資源を割り当てることになってしまいかねません。
その辺りの方法論が確立していないので、「パスファインダーを作ってもニーズから乖離してたら駄目じゃないか?」という話も出てくるわけです。
であれば、きちんと「エビデンス」を収集・分析すればよい話。少なくとも図書館以外の分野では当たり前の発想でしょう。例えば、NDLでは、ここ数年の電話・カウンターで発生したレファレンスをイントラネット上の掲示板に記録し、蓄積されたデータに対して定期的に分析を行ってニーズを抽出するという方法を取っています*6
インターネットで公開した後にログ解析をかけるというのも、事後の処理としては必須ですが、やはり事前準備が肝心でしょう。「カウンターはニーズ集めの場」とまで言い切っている知人もいました。一見極端ですが、一理あるコメントです。あと、ある程度勝負する分野を最初から絞ってしまうのもアリでしょう*7

パスファインダーの共有、という話。

色々書いてきましたが、「そうは言ってもバラバラにやるよりも協同してできた方が、色んな面でうまい」という意見が実は一番ポイントで、かつ一番回答し辛いところだったりします。これまでパスファインダーバンク私立大学図書館協会東地区部会研究部企画広報研究分科会)や、上述のレファレンス協同データベース(調べ方マニュアル)はこの辺りを解決しようとする取り組みでしたが、残念ながらいずれも決定打となれていないという状況です。ここの解決が最大のネックなのですが、解決の方法としては、「一極集中」よりは「自律分散」の方が現実的・効率的ではないかと思います。
なお、上述のリサーチ・ナビでは「公共図書館パスファインダーリンク集」というのを公開していますが、手始めとしてはこんなところなのかもしれません。

以上、長々と書いてきました。
パスファインダー自体、現在の情報環境下にあってはそれなりに有効なサービスだと思うのですが、従来の「レファレンス」自体のアーキテクチャの再構築の議論も出始めている今日この頃*8。考えることはまだまだありそうです*9

*1:この呼称自体たぶんに図書館ジャーゴンなので、「調べ方案内」等と呼んだ方がいいと思います(それはそれで微妙だという話もありますが)が、ここではそのまま。

*2:基本的に地域の公共図書館を念頭に置いていますが、他の館種に読み替えは可能な部分もあるはず。あと、パスファインダーはインターネット公開(PDFじゃなくて)してなんぼ、という前提でも書いてます。

*3:リサーチ・ナビについては、09/6/22「ARGカフェ&新しい図書館研究交流会@仙台」も参照。

*4:ナビゲーション・エンジンはLittel Navigatorを採用。

*5:パスファインダーの厄介?なのは、寧ろ作った後のメンテナンス。それを省力するという意味では、嬉しいかもしれない。

*6:齊藤まや「国立国会図書館主題情報部科学技術・経済課における職員のスキルアップと情報発信の取り組み」(『医学図書館』56-1, 2009, pp.27-32)、伊藤白・小澤弘太「レファレンス事例を活用したWeb上パスファインダーの作成・提供― 国立国会図書館科学技術・経済課における主題情報コンテンツ作成の取り組みと成果 ―」(『参考書誌研究』68,2008,pp.50-68)などを参照

*7:これは、単館よりもある程度の地域単位などで協同した方がうまいかもしれません。

*8:例えば、http://d.hatena.ne.jp/arg/20091012/1255337285とか。

*9:個人的には情報リテラシー教育の一環として生徒にパスファインダーを作らせる試みに、ヒントが隠れているような気もしますが、それは改めて