井上方勝『北ボルネオ』

井上方勝 『北ボルネオ』 神戸, 井上方勝, 明治28(1895)年, 61p.

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明治時代に多くの日本人が移民として海を渡っていったが、北ボルネオもその目的地の一つだった。北ボルネオ移民の第一波が1893〜1895年だったらしい(ちょうど世界大不況の時期と重なる)。
1893年に英領北ボルネオ政府は、日本などで助成金移民の募集を行った(日本政府としては、「積極的に進めないが止めはしない」という方針だったようだ)。これに応じたのが、折から神戸に拠点を置く海外移住同志会に籍を置き、主に西日本からの移民事業に携わっていた井上方勝である。
井上は1894年11月に18名の移民を伴って北ボルネオを調査した。本書は、その際の報告書で、内容は北ボルネオの詳細な地誌調査と北ボルネオ移民に関する彼の意見の二部構成になっている。
ここで井上は結論として、日本人の移住先としての北ボルネオを「大いに有望」と評価しているが、その論拠は少々苦しい。

  • 地下資源も見つかっていないし交易の要衝でもないが、同じようなハワイだって移民がいっぱいいるじゃないか。
  • サンダカンなどを除けば殆どの土地の気候は日本人に合わないが、(行ったことないけど)タイやオーストラリアの内地よりましだろう。

こんなことを書かれていったいどれほどの人がボルネオで一山当てようと思うだろうか。ちなみに、別の移民業者がトラブルを起こしたために、本書刊行の1895年から以降10年ほど、ボルネオ移民が停滞することになる。