外務省通商局 『暹羅国出張取調報告書』 東京, 外務省, 明治27(1894)年, 80p.
本書は、外務省が行ったタイに対する移民調査結果の報告書で、報告者は当時シンガポール二等領事だった齋藤幹。タイ国の気候・風俗・産業などの概況だけでなく、土地所有に関するルールや農業の様子、輸出産業の現況などを詳しくレポートしている。
ここで齋藤は、「暹羅国ハ果シテ日本人ノ移住ニ適スル土地ナルヤ否ヤ」という命題について、「農業従事者を送りこんで彼の地の米作とその輸出事業を成立させることができれば可能であろう」という結論を冒頭で出している。彼の地の気候・風土は日本人にとっては厳しいものなので、それを上回るメリットがなければGoサインを政府としても出せなかったのだろうか。現地に定住するだけでなく、輸出まで押さえるべしと書いているところに、タイへの移民事業の特徴が出ているだろう(小室三吉『緬甸紀行一班』をとありげた時に触れたように、当時、日本や東南アジア諸国はヨーロッパに米穀の輸出を盛んに行っていた)。
この3年後に発行された岩本千綱『暹羅老士安南三国探検実記』を取り上げた時にも書いたように、結局のところ、タイ政府の好意的な姿勢も実を結ぶこともなく日本のタイ移民政策は頓挫してしまう。