バナーラスからの手紙(1)


 バナーラスでは、ガンジスを見下ろすことができる部屋に泊まっています。男2人なのに奮発したのです。この季節、街は薄い靄に包まれていて、遠くまで見渡すことはできないのですが、その分だけ街の持つ神秘的な雰囲気が増長されているような気もします。

 しかし、ガート沿いに密集する建物群の下で牛や人が繰り広げるこの街の面白さについて書く前に、バナーラスまでの道のりについて書かなければいけません。
 ポカラからバナーラスまでの通しのツーリスト用チケットを買ったのですが、これで一本のバスで目的地まで行けるわけではありません。国境の街のスノウリで一度バスを降り、リキシャで国境へ。出入国の手続きをしてからようやく、インドへ入ることができます。要は、何かと面倒なのです。
 そんなわけで、昨日、僕たちがインドに入った時には陽も暮れていました。裸電球の下で蠢く褐色の肌の人々…それが僕のインドの第一印象です。
 ポカラの若主人に教えてもらっていたホテルで待たされてからバナーラス行きの夜行バスに乗り込み―僕たちの他にはイタリア人のカップルしか乗っていませんでした―、バナーラスに向かったのですが、「走る鉄屑」とでも呼んだ方が良いようなそのバスの乗り心地ときたら。僕たちは寒さと椅子の硬さで一晩中まんじりともできませんでした。

 そんなこんなで着いたバナーラス。この時期の朝方は特に靄がひどいらしいのですが僕たちが到着した日もご多聞に漏れず正しく「五里霧中」な有様でした。こんな状況では、右にも左にも行けません。こんな時に頼りにしたいリキシャに「ここに行け」と言っても、全然違う所に連れていくし、人の話は聞かないし。自分で歩こうにも、三歩歩けば客引きにつかまるし。
「I know everything. No problem, Mr. !!」
 この言葉を吐く人間のほとんどは何も知らないし―たとえ知っていても本当のことは言わない!―、必ず問題はあるのですが、早くも聞き飽きました。牛が我がもの顔で狭い路地を占領するこの街で、中国とは違った意味で強烈なインドの洗礼を浴びています。