生江孝之『欧米視察細民と救済』

生江孝之 『欧米視察細民と救済』 東京, 博文館, 明治45(1912)年.

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生江孝之(1867-1957)は、宮城県出身で、キリスト教を基盤にした社会事業家として知られる人物である。
青山学院退学後、宣教師の通訳などをしていた生江は、明治33(1900)年、友人たちからの出資を受けて1回目の渡米を果たす。目的は、彼の地の社会事業の視察。このときは、サンフランシスコ、ニューヨーク、シカゴとめぐり、ボストンでは大学院に入って社会事業の研究を行った。帰国は、明治37(1904)年である。そして、明治41(1911)年から翌年にかけて、今度はイギリスやドイツ、フランスなどのヨーロッパ諸国の社会事業を視察した。
本書は、これら2度に渡る外遊の成果をまとめたもの。彼の代表作の一つとされているが、非常に充実した内容なのですべてを紹介することはせずに、ここでは、「第十章 図書館の普及 」に注目してみたい。
生江は、ここで市民の「読書趣味を養ふべき設備」として図書館の重要性を説いている。自分が留学時代に最もよく活用したであろうボストン市立図書館を大型図書館(「世界に於ける最大の図書館」)を、また、田舎での事例としてマサチューセッツ州ボブデル(当時、人口3000人程度)にある図書館を、またニューヨークやボストンで行われていた巡回図書館を紹介し、それぞれが地元の人々に対する社会教育の場として役立っていることを指摘する。
生江はまた、アメリカでは普通に行われている図書の貸出サービスがないことに代表されるような日本の図書館サービスの立ち遅れについても指摘しているが、それだけではない。併せて、日本の図書館の先進事例も紹介しているのだ。特に山口県図書館(館長・佐野友三郎)については「若し我国の図書館に於て其の範を求めんと欲すれば先づ之れを山口県に於て見るを適当と思ふ」とまで激賞している。山口では、公共図書館運動の旗手の一人として日本の図書館の基礎を作ったと言われる佐野の下、巡回図書館の設置や児童文庫、婦人向け家庭文庫など、先進的な図書館サービスを導入していた。
蓋し、生江の慧眼と言うべきか。

参考文献