第2回LRGフォーラム・菅谷明子×猪谷千香クロストークに参加
第2回LRGフォーラム・菅谷明子×猪谷千香クロストークに参加してきました*1。当日の記録などは、雑誌『LRG(ライブラリ−・リソースガイド)』の次号にも掲載されるらしいので、ここでは備忘を兼ねて感じたことなどを簡単にまとめておきます。
登壇者の一人、猪谷千香さんは今年出された『つながる図書館』でここ数年における注目すべき図書館の取り組みをジャーナリスティックにまとめていて、これからの「図書館」を考えるための一つの出発点になるものだと思います。そして、この本のミソは、この出版イベントに参加して感じたことでもあるのですが、ターゲットが「図書館業界以外の層」にある点。この結果、「考える」主体は<図書館業界より大きな集合>になります。そして、もう一人の登壇者、菅谷明子さんは11年前に出された『未来をつくる図書館』でニューヨーク公共図書館の取り組みの紹介したことで、結果として(従来の貸出に偏ったサービスからの変革を指向しようとする)日本の図書館業界のここ10年のトレンドの指針を提示することになったと思います。その意味では、乱暴承知で言うと、菅谷さんの本から生まれたトレンドの結果に対する日本図書館界の回答が猪谷さんの本である、という見方もできるかもしれません(イベントでも猪谷さんが「菅谷さんの本を読んで衝撃を受けてニューヨークに行った」という発言をされていました)。
つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)
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- 作者: 菅谷明子
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とは言え、この広い意味での「図書館リテラシー」を持つ人(菅谷さんの言葉を借りれば「賢い人」)というのは、自分や自分の周りを振り返ってみても分かるように、そうそういるわけではありません。となるとやはり学校レベルからの教育が大事でしょう、ということで菅谷さんから紹介された、ボストンの(娘さんが通われている学校で実践されている)教育法の事例は興味深いものでした。小学校の1年から事実と評価の違いを学ぶ情報リテラシー教育*4もさることながら、とりわけ興味深かったのは、読書教育における「本の読み方」。通常、学校における「本の読み方」は、一人で読み、読書感想文を先生に渡し…という1:1の関係性の連続に成り立っています。ところが、ボストンでは本を読み終わった後にその内容について生徒同士でディスカッションをして、「一人では気づけない、多面的な学び」を持つそうです(その延長なのか、ボストンでは多くの市民が同じ本を読んでディスカッションするイベントもあるそうです)。あと、ボストンの小学校ではあと、本は知らないことを知るために読むものであり、共感するために読むものではない、と学校の先生から言われたエピソードも面白かったですね(この文脈で行けば、日本のように「読書=小説」のような意味不明な図式は成り立ちません)。
ここで挙げられた取り組みがどこまでボストン、或いはアメリカのスタンダードなのかは分かりませんが、考えさせられることはとても多いと思います。ここから教訓めいたことを導き出すとすると、「何を読むか」ではなく、「どう読むか」を図書館が教えなければならない、ということでしょうか(菅谷さんが、日本はなまじっか識字率が高いが故に「どう読むか」を教えるということが欠落していたのではという仮説を提示されましたが、これは目から鱗でした)。
猪谷さんは、わが国においても経済格差が進みつつあるという現実を踏まえ、図書館は「知のインフラ」というよりも「知のセーフティ・ネット」であってほしい、と述べておられましたが、今回のイベントは、広い意味での「図書館リテラシー」を持ったコミュニティとその構成員の実現を目指しつつ、狭い意味での「図書館リテラシー」(この場合、「情報リテラシー」という言葉の方が適切かもしれません)の教育にも地道に取り組んでいってほしい、というお二人の図書館へのエールだったのかなと感じました。
*1:このクオリティーのイベントを無料で開催して頂いた主催者及びボランティアの方々に感謝します。
*2:或いは、図書館・書店・マイクロライブラリー等を包含した<地域の本の生態系>に置き換えるべきかもしれません。
*3:日本における一つの例として、小布施町や神奈川県立図書館を考える会の取り組みが挙げられるかもしれません。Ref.「まちとしょテラソで未来の図書館を考えてみた」「神奈川の県立図書館を考える会」
*4:アメリカの図書館の多くには各種のサービス・製品の第三者評価情報がまとめられた"Consumer Reports"が完備されているそうですが、こういう背景があるのであれば納得です。