川上操六『印度支那視察大要』

川上操六 『印度支那視察大要』 明治30(1897)年, 46丁.

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本書は、川上操六(1848〜1899、当時陸軍参謀本部次長)が、明石元二郎、伊地知幸介、田中義一といった錚々たる顔ぶれの陸軍の士官を従えて行ったベトナム視察の報告書である。
日本は、日清戦争に勝利したことで大陸への進出、即ち植民地化へ向けての足がかりを作った。そして戦争が終わった翌年、陸軍の川上たちが、十数年来フランスの植民地化にあって比較的安定した状態にあったベトナム(印度支那)に派遣された。ベトナムを、単なる情報収集の対象以上に、日本が大陸に進出する際のモデルケースとして考えていたことは想像に難くない。
川上たちは、ベトナムにおいて軍隊の構成、将校レベルの人材育成、兵士の待遇などを詳細に見聞し、安定的な植民地経営のためにはいかに軍隊の存在が重要かということの認識を新たにしたようだ。また、フランスがベトナムを南北に結ぶ鉄道を敷設して利益を得ている点に注目している点も興味深い。
これらがどれほど日本の植民地経営に影響を与えたかまでは調べきれていないが、時代背景を考えると、面白い一冊だ。