南益行の「観光図書館論」

<旅>もしくは<観光>と<図書館>との関わりについて、最近少し話題になっている(「している」といった方が正確か?)。

しかし、その基礎となるべき「先人へのリスペクト」ができていなかったので、ここで改めて紹介したい。

南―彼についての調べは進んでいない。ご存知の方があればご教示頂けると幸い―は、この2ページの小論で、戦後盛んになってきた観光事業における一分野としての「観光図書館(仮称)」について、その果たすべき役割についてこう述べている。

思うに、広くは広大無辺なる世界の観光資源から、小さくは一地域の自然風土にいたるまで、活動する社会の波として、人類は永遠に散策する。その行く先々の、史蹟を物語る資料や、風土保全に関する計画書などの観光資料は、必ずや旅人を満足せしめるであろう。その道に関心を寄せる人ならば、大いに裨益するであろう。

これを踏まえて、以下、南の意見をまとめると、おおよそ次のようになる。

  • 従来の観光事業・観光活動に文化活動的な側面を持たせてそこに「観光図書館」の"framework"を作っていくのがよい。
  • サービスの主対象は観光客とする(無論、その他一般利用者へのサービスも妨げない)。
  • 従来あまり大きく取り扱われてこなかった郷土資料をより組織化・機能化して提供すべきである。また、その地の観光に関する写真・ポスター・地図・絵葉書なども取り扱うべきである。
  • 内外の観光客に宣伝し、図書館資料を提供する同時に、観光文化活動を促進するための種々の統計・調査を作成し発表すべきである。
  • 利用者に、適切な情報の提供を通じて快適な旅を供するには、「新しい観光文化活動を創造」できるような有能な司書(館員)が必要である。
  • 運営は、(1)国/自治体の観光所管部局ないし図書館が運営する公立方式と、(2)パトロンないし私立観光団体の出資による私立方式の2通りが考えられる。

ここには、「観光のための図書館」に必要な普遍的な要素の、そのかなりの部分が提示されているように思われる。今から50年以上も前にこの一文を書いた南の見識には感服せざるを得ない。と同時に、その後、この分野においてほとんど無策であった日本の図書館界には(自分への反省も含めて)残念な気持ちを抱いてしまう。
ともあれ、時代はようやく南益行に追いついた。


<2023/2/1追記>
デジタル化資料の全文検索が可能になった国立国会図書館デジタルコレクションで「南益行」で検索してみると、1952年の『図書館ハンドブック』のp.729がヒットした。どうやら当時、大阪商業大学図書館の事務長をしていたらしい。