岩永六一『台湾言語集』

岩永六一 『台湾言語集』 大阪, 中村鍾美堂, 明治28(1895)年, 83p.

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1895年4月の下関条約によって台湾が日本領となることが日本と清の間で取り決められた直後、日本は台湾に軍隊を進め、台湾を植民地化した。
そこで派遣された軍隊の一つ混成枝隊(澎湖島に駐留)の通訳官・岩永六一は、駐留直後から現地の言語の収集に努め、そして翌5月にその成果を83ページのコンパクトな辞書にまとめた。それが、日本初の台湾語についての語彙・例文集であるところの本書である。
内容は、台湾語の単語・文章に対して、それぞれにカナ発音、日本語訳を付しているだけの簡単な作りだが、この1か月という短時間で作成されたことには驚きを禁じえない。ちなみに、岩谷は同年発行の『臺灣省臺灣地誌彙編』(臺北成文出版社, 明治28年, 日本での所蔵確認できず)の編纂にも携わっている。
台湾総督府は、その13年後に『日台小辞典』(大日本図書、明治41年)という官製辞典を刊行することにるのだが、これが本格的な台湾語の辞書の嚆矢とされている。こういった本格的な辞書の登場までには、様々な人々の苦労があったことを忘れてはいけないということを教えてくれる。また、こういった日本人の台湾語についての知見の蓄積が、その後の台湾人自身による台湾語の研究・保存に繋がっていくというのも、歴史の皮肉といったところだろうか。
なお、岩永のその後の事蹟は伝わっていない。