石垣島

俺と伊毛打と蛇化未禰の3人が石垣島の空港に着いたのは、昼過ぎだった。

こじんまりとした空港を出て、離島桟橋に向けてタクシーに乗り込む。初乗りが390円ということに驚いたのも束の間、運転手のおじいが妙なことを言い出した。
「車で少し行ったところに、川平という海のキレイな場所がある。連れて行ってやろうか?」
何でも、石垣島の川平湾は透明度30メートルを誇り、それは海としては世界一だという。
少し興味を示した俺たちに、おじいはおもむろに、「値段は、3000円でいいよ」と料金を提示してきた。
この値段高いのか安いのか、何の尺度もないので、俺はまったくもって躊躇してしまった。決定の責任を二人に押し付けようと振り返っても、二人とも「どっちでもいいよ」とうまく逃げる始末。なんて友達がいのないやつらだ。

「次の曲がり角までに決めてくれ。右が川平、左が離島桟橋」と、おじいがさらに畳み掛ける。おじい、なかなかタフなネゴシエイターとみた。
仕方ないので、半ば自棄気味に、「3000円は高い」と言ってみたら、「うーむ、東京の人で値切ってくるのは極めて珍しい」とかなんとか言いながら、値段は2500円になった。

「実は関西人で悪かったな」と腹の底で思いつつ、これで交渉成立。どうせその日は西表島大原で泊まる以外に予定はない。

川平までは普通に車を飛ばせば15分といったところが、八重山スピードだと25分位かかる。
そして道中、おじいの漫談が続く。やれ、「あれがでいごじゃ」だの「あの路傍の葉っぱは内地では高く売れる」だの「あの家はビギンの・・・」だの、まるでバスガイドのようなおじぃの定型化した話に適当に合いの手を入れつつ、俺はチャリンコにヤンキー乗りした中学生の、もう内地では絶滅したであろう幅広のボンタンに目を奪われていた。

おじぃの漫談が途絶えたところで、「石垣島には内地からの移住者が多いんですってねぇ」と、俺はちょっと気になっていた事で、話の水を陽気に喋り続けるおじぃに向けてみた。
俺の愚弟によると、石垣島はここのところ内地からの移住者が急激に増えているという。そういった内地人の急増は、石垣人の生活に影響を及ぼさないわけがないと思っていた。それに、こっちに長いこといた友人が、「結局、ないちゃー(内地人)は受け入れてもらえない」と言っていたことが、どうしても頭から離れなかったのだ(もっともこの場合、長いといっても漁師のマネごとを一月やっただけなのに、という反論も成り立つのだが)。
「そりゃそうだよー、こっちは暖かいし、時間の流れものんびりしてるもん」と、返ってきた言葉は、模範解答そのものだった。胡散臭いサングラスの下の目とチープなアロハの下の太鼓腹までは、読めなかったけど。

ただ、最近ニュースにもなっていたが、市当局としても、この移住者の急増という問題には頭を悩ませているらしい。ただでさえ失業率の高い沖縄で、想像通り“まったり”過せる人間は少なく、結局、どうにもならなくて、ブラブラしている人間も多いという。また、こちらに家を構えても、住民票は内地に置いたままという人間も少なくないらしい。

などとウダウダやっているうちに、無事に川平湾お仕着せグラスボート観光を終え、2時過ぎにようやく八重山観光の拠点・離島桟橋に到着したのであった。