押川春浪『中村春吉自転車世界無銭旅行』

押川春浪中村春吉自転車世界無銭旅行』東京, 博文館, 明治42.8, 326p.
旅行者:中村春吉(1872−1944)
渡航先:世界一周(中国、東南アジア、インド、中近東、ヨーロッパ、アメリカなど)
渡航時期:明治35年(1902)-36年(1903)

<表紙>

 現在、「貧乏旅行」と呼ばれるものは、明治時代は「無銭旅行」と言っていたらしい。今と一番違うのは、お金の調達の方法のようで、まず国内でスポンサーを見つけて金を工面し、さらに道中でも、現地の日本人に用立ててもらうか、アルバイトをして、路銀を得ていたようです。
 色々な資料をめくっていると、当時も中国などを中心に、数多くの自称「無銭旅行者」がいたことが分かります。もちろん、今のバックパッカーの数とは比べ物にならないが、いつの時代もやることは変わらないようです。

 この中村春吉は、

進すんで世界を踏破し、世界冒険旅行と云ふ事は、西洋人にばかり出来る離れ業では無いぞ

と勇ましい言葉を吐いて、日の丸をかざした自転車での世界一周の無銭旅行に挑んだ「元祖バックパッカー」とも言うべきヒトです(とは言え、船も使っていますが)が、五賃(汽車賃、船賃、宿賃、家賃、地賃(地代))無しで旅行したというから、筋金入りの「無銭旅行者」でしょう。
 で、この本は、その際の旅行談を、冒険・探検作家押川春浪が、面白おかしくまとめたもの。ただし、インド〜中近東〜ヨーロッパ〜アメリカと一年半かけて旅行しているものの、ページのほとんどは話の面白いアジアでの出来事に費やされていて、欧米の部分には軽く触れられる程度です。また、本人の大言壮語の多い豪快な性格と売れっ子作家の脚色が相まって、春吉は行く先々で殴り合いの喧嘩をしたり、強盗を撃退したり、そして果ては猛獣と格闘したりと、「話半分」のつもりで読まないといけない内容になっています。

 なので、読まないまでも、本の扉には出発前のこざっぱりした格好の春吉と、帰国後のこきたない姿の春吉の写真が掲載されているのですが、この対比だけでも十分面白いです。

<出国前>
<帰国後>

 因みに、中村は、帰国後、満州でスパイをやったり、日本で気功治療を行ったりと、相変わらず破天荒な生き方を貫いたらしいです。