渡部教行『布哇国案内』

渡部教行『布哇国案内』 大阪, 今村謙吉, 明治27(1894)年, 36p.

<本文>

著者は愛媛県出身のハワイ移民。本書に自らの来歴について語るところがほとんどなく、また他の記録にもその名を見出せていない。
日本からハワイへの移民は1868年以来行われているが、政府が移民希望者を募集するいわゆる「官約移民」は1894年でいったん打ち切られ、その後しばらくは私設移民会社によるいわゆる「契約移民」となる(会社を介しないいわゆる「自由移民」もいた)。「当時ハワイから故国に送金される金額は毎年二〇〇万円に達したといわれ移住希望者は後を絶たなかった」(『愛媛県史』)そうで、本書によれば、当時のハワイの人口約10万人のうち、日本人移民が2万人を占めたという。
さて、本書を通読してみると、キリスト教に関する記述が多いことに気づく。書きぶりから察するに、著者も洗礼を受けたクリスチャンなのだろう。

布哇は日本人が尤も多く外国人に接する所でありますれば布哇に行く人々は能く々々注意して決して日本の名誉を汚すこと無き様にせねばなりません。…(中略)…諸君が布哇に行かれましたならば願くは彼国の悪しき習慣に陥らずして善き社会に交わり進んで又基督教の何者たるを研究し真の神の道に入り正しき人となられるんことを偏に望むところであります。

※ここで言われる「悪しき習慣」はあくまでもハワイ固有の習慣を指す点には要注意。

本書を出版した今村謙吉自身がキリスト教の伝道に従事してハワイにも滞在した経験を持ち、そして関連する書籍を何点も出版している。その縁で本書の執筆者として渡部が迎えられたのだろうか(末尾にはハワイの各地で伝道に従事する日本人が挙げられている)。この時代、移民に関する本は多いが、キリスト教の伝道と結びついた本は珍しいのではないか。