ヘルシンキ滞在記:其の参


 ヘルシンキはビールの美味い街だ。
 フィンランドでは、KOFFやLAPIN LULTAといった自国ブランドのビールが幅を利かせている。どちらも、美味いことは美味いのだがガツンとした特徴はない。世界各地でビールは作られているが、独断と偏見でまとめてしまうと、総じてアジアはライトでヨーロッパは重厚な味だ。これは良し悪しというよりも、土地の気候(とそれに伴う嗜好)に合った味を作った結果だと僕は思っている。なので、この二つのビールの味も、この土地とここに住む人々にとっては最も馴染む味なのだろう。

 そんなわけで、週末のカフェには、午前中からビール・グラスを傾ける男たちがくだを巻いている。ショッピング中の若い女の子たちも、オープン・テラスでお茶の代わりにビールだ。しかも、秋口でやや肌寒くなってくるこの時期でも、オープンテラスで。この辺りは太陽に異様に執着する北方の人々の性なのだろうと思うのだが、何もそうまでしなくても…と外国人の僕は思ってしまうのだが、それはさておき、とにかくフィンランドの人はよくおビールを飲んでいる。
 僕もそれにつられてほぼ毎晩、ホテルに帰る前にコンビニで500ml缶のLAPIN KULTAを買って帰るか、ホテル近くのパブで生ビールを引っかけて帰るのがちょっとした日課になってしまった。ついでに書いてしまうと、軽く酔っ払ってからホテル内のフィンランド式サウナでひと汗かくのがまた気持ち良い(たぶん、身体には良くないのだろうけど)。

 さて、見ていると、カフェやバーなどでビールを飲むとき、こちらの人はひたすら飲んであまり食事をとっていないのだが、ここの料理もビールに合わないわけではない。
 ジャガイモやキノコ、サーモンやタラ、はてはトナカイなど、素晴らしい食材でマーケットは溢れている。フィンランド料理も以前はあまり評判が良くなかったらしいが、クリームソースをかけてブルーベリーのジャムをかけるだけで、十分美味いし、ビールにも合う。最近は中華やネパール、ベトナムなど移民の人々が持ち込んだ料理法でこういった食材を堪能することもできる。ちなみに、日本食だと、サーモンの寿司が絶品だ。

 が、一人旅の僕がこういった料理をビールとともに思う存分堪能することは、なかなか難しい。そこで、スーパーやコンビニに頼ってしまうのだが、こういう時は、日本の居酒屋というのはよくできたシステムだと思ってしまう。
 そんなわけで、少しひんやりしてきた秋の東京でビール缶を開けるとき、僕はコートの襟を立てながらもビールグラスを傾けるヘルシンキの人々を思い出す。