ジャイガオンからの手紙

 ブータンという国は、バックパッカーにとってはハードルの高い国の一つです。個人旅行が許可されておらず、旅行費用を含んだ一日単位のビザの高額な代金を払わなくてはいけないからです。そんなわけで、今回の旅でもブータンに行こうなどとは露にも考えなかったのですが、またまたリョウが提案してきました。
ブータンの国境の街ならビザなし入国ができるらしい。行ってみようぜ」
 となると、行ってみたくなるのが人情というか、バックパッカーの性。一昨日の夕方シリグリから、ここインド側の国境の街ジャイガオンへ来たのです。
 インドのジャイガオンと国境を挟んで向かい合うのが、ブータンのプンツォリン。俯瞰すれば、一つの街の中央に国境というか、どぶ川が走っていて、その境は24時間自由に往来できるようになっています。ゲート代わりに、ブータン様式の門があり、そこを長距離バスやトラックが行き交っていて、なかなかの活気です。ちなみに、仏教寺院を中心に設計されていて、整然としてかつ緑の多いプンツォリンの街並みに比べて、ジャイガオンがインドの街特有の雑然とした街並みになっているのは、国民性の違いでしょうか。
 
 さて、ブータンに入るという目的はこうしてあっさりと達成できたのですが、人間の欲とは際限ないもので、こうなるとブータンを旅行してみたくなるというのも、また人情。
「何でも、現地の人と仲良くなれば、こっそりブータン旅行に連れて行ってくれることもあるらしい」
というリョウの情報に、乗らない手はありません。そのためには、まずは「現地の人と仲良くなる」必要があります。
 動機としては不純なことこの上ないのですが、僕たちは「仲良くなれそうな人」を探して、この狭い街を歩き回りました。というか、この狭い街では、そうでもしなければ他にすることがないのです。
 そしてすぐに、お誂えむきの「仲良くなれそうな人」に出逢いました。
 T氏と名乗った、顔面がホームベースのような法曹関係の公務員。出入国の情報を得ようとふらりと僕たちが立ち寄ったお役所で働く、妻子持ちの30男です。
 「金はないんだけど、ブータン旅行したいんだよね」と勝手極まりない要望を並べ立てる薄汚れた日本人2人組を前に、
「俺は君たちと友達になりたい。そうしたら、ブータン国内の旅行にもこっそり連れて行ってあげよう。」
と、公務員とは思えないことを言ってのけたのです。僕たちにしてみれば、渡りに船といったところですが。更に、T氏は僕たちをうれしがらせることを言ってくれました。
「出発は2日ほど先だ。それまでホテルだと金がもったいなから、友達の家に泊まればいい」
 ブータン旅行どころか、ブータン人の家にホームステイです。次の展開が楽しみになってきました。