再びダッカからの手紙

 今朝、カルカッタを出て、今はダッカにいます。
 ここからバンコク経由で成田に向かうのですが、出発まで6時間近く間が空くということで、空港近くのホテル―市内北部の高級住宅地街だと思います―で休憩しているのです。素晴らしく美味いカレーも出してくれるし、なかなか気前の良い航空会社です。

 カルカッタの空港で、小汚い日本人のおっさん―小汚いのは僕も同じですが―と話をするようになりました。同じ飛行機でバンコクまで行くとのこと。言動からして、かなり年季と気合の入った貧乏旅行者のようでした。
 普段ならパスするタイプの御仁なのですが、向こうが意外にフレンドリーだったのと、そして何より僕が暇を持て余していたので、あれやこれやと話をするようになりました。
 おっさんは、近くにいた日本人の女の子を見ては「兄さん、声かけなよ」とか9割方は要らんことを口にしていました。当然のことながら、同胞の女の子からは白い目で睨まれ、空港やホテルでも何かとスタッフと揉めていました。

 そんなおっさんに向かって、僕は乞われるままに今回の旅について話しました。
 3ヶ月ほど中国やネパール、インド、バングラデシュブータンを回ってきたこと。9.11の影響で、シルクロードをひたすら西に行くという当初の予定は果たせなかったこと。結果として、チベット・インドなどを回ることができたこと。チョモランマの美しさやベンガル湾に沈む夕陽の素晴らしさ。たくさんの面白い出逢い…。
 それらを僕が、思い出すように、確認するように暫く喋り続けるのを一通り聞き終えた後、おっさんは一言だけポツリと漏らしました。
「兄さん、良い旅をしたね」
 僕はその瞬間、「あぁ、旅が終ったんだな」と思ったのでした。それまで、「旅の終わり」というやつがどうにも実感できなかったのですが、何かがストンとはまったような感じがして、身体から力が抜けたような気がしました。

 明日の朝、成田空港に着いたら電話します。