海野鉚吉『征清従軍日誌』

海野鉚吉編 『征清従軍日誌』 豊田村静岡県), 海野鉚吉, 明治28(1995)年, 90p.

<本文>

「戦争」というものは色々な側面があるものだが、(決して幸福な形ではないが)「越境」の一つのスタイルであることは間違いない。
海野は、日清戦争に従軍した野戦騎兵第三大隊第一中隊第四小隊(大隊長・田村久井、第四小隊長・植野徳太郎)所属の兵卒だった人物である。戦争終了の半年後、従軍日誌を自費出版した。日誌には、1894年8月4日に駐屯地を出発し、6月29日に神戸に帰着するまでが事細かに記されている。
これによると、9月5日に元津に入り、そこから朝鮮半島を北上して、遼東半島での戦闘に参加した。日誌には、行軍記録や戦闘記録だけでなく(実際に戦闘している時間というのは、実は意外と多くなく、むしろ「例外」に近い)、食糧の徴発に立ち寄った民家に潜んでいた清国敗残兵との大立ち回りや、戦死した戦友の葬儀の様子、戦闘終了後の息抜きの市街散策などのエピソードも(淡々とした記述ではあるが)盛り込まれている。一部隊の記録からだけで日清戦争の全貌を掴み取ることは難しいが、「日清戦争」という言葉の大きな<傘>に隠れた個人個人の多様な活動記録を垣間見ることができて、非常に興味深い。こういった個々の行動の積み重ねが<戦争>であるのだから。
日本への帰還は、翌年の6月29日。本書の刊行は10月なので、帰国後すぐに出版準備に取り掛かったと思われる。本書の出版は、戦勝に沸く海野の郷里でどのように迎えられたのだろうか?