浅沼藤吉『欧米周遊略記』

浅沼藤吉編 『欧米周遊略記』 東京, 浅沼商店, 明治34(1901)年, 11+10p.

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浅沼藤吉は1870年に東京で、外国商館から写真材料を仕入れて販売する写真材料商・浅沼商店(現・浅沼商会)を開業し、明治の写真界で指導的な役割を果たした人物である(顧客には徳川慶喜など錚々たる面子がいた)。
浅沼商店は1899年のパリ万国博覧会・写真部に、同社で作成した器械を出品したのにあわせて浅沼が渡仏したのだが、その際の旅行記や撮影された写真などをまとめたのが本書である。
写真部には、フランスをはじめイギリス・ドイツなどから「高尚優美」で「壮麗」で「精巧」な器械が出品されており、あまりの彼我の差に浅沼も最初は「汗顔の外なかりし」という状態だったという。しかし審査官からは、彼の30年というキャリア(当時の欧州では珍しかったらしい)に驚嘆のコメントを寄せられるとともに、

出品の器械に於る工合の円滑なると仕上の精良なるとは以て日本人の器用なるを推知せしむるに足る。且日本より写真画出品中漆写真其他四五のものは実に精妙にして欧米品に優る処あり。日本の技術なるかを少しく疑いしも今君との対話に依りて疑團は全く氷解したり。眞に日本は望みある少年国なり。

という賞賛の言葉(完全に上から目線だが)を貰い、結果として二等銀牌を獲得した。「日本人の手先が器用」とは今も昔もよく言われるところだが、その面目躍如といったところか。
パリ万国博覧会を終えた浅沼は、イギリス、ベルギー、オランダ、スイスなどを巡ってからアメリカにわたり、大陸を横断してから日本に帰国した。訪れた各地での写真技術者たちとの交流は、さぞや彼の見聞を広めたことだろう。ついでに付け加えておくと、浅沼は各地の写真家に自身の肖像写真を撮らせている。変わった趣味だ・・・