三日目:理塘

 理塘行きのバス(83元)はまだ暗い6:00に出発した。ここからは中型のマイクロバスにいかついチベタンたちと無理矢理押し込まれる。 暗闇でサングラスをかけたチベタンの若者がじっとこちらを見ていた。流石に怖かったのだが、日が昇ってくると、何のことはない。彼は口を空けて寝ていた。

 何でも、前日まで3日間、雪で峠が閉鎖されていたらしく、康定を出る道路はトラックやバスで大渋滞していた。康定から理塘へのルートは、4,000メートル級の峠を3つ越えなければいけないので、この時期の道路の閉鎖は珍しくないらしい。
 峠の上は吹雪で視界が悪い。所々に崖下に落っこちている車があったりして、ドライバーが携帯電話で喋りながら運転しているのを見ると、背筋が寒くなる(ただでさえ寒いのに)。とは言え、新都橋などの峠と峠の間にある農村は、ちょうど刈り入れの終わった晩秋の風景が非常に美しい集落だった。
 チベタンや我々外国人旅行者が小さなバスに押し込められ、運ばれていく横を、中国人ツーリストを乗せたランドクルーザーは軽快に抜かしていく。理塘から雲南の方へ抜ける途中にある稲城(ダッパ)や亜丁(ヤーディン)などが、景勝地として最近人気らしく、そこへ向かうらしい。

 山を降りたり登ったりするのにいい加減に飽きた頃、視界が開け、遠くの茶色い大草原の真っ只中に、無理矢理作ったミニチュアみたいな街が見えてきた。理塘だ。
 17:00、理塘に到着した。並走していたもう一台のバスに乗っていたドイツ人旅行者と連れ立って、仙鶴賓館(Crane Guest House)に宿を決めた。値段もいい(一ベッド20元)し、理塘の目抜き通り沿いで、バス停からも500メートル位だし、数軒隣には安い・美味い、そして英語もOKな中華料理屋“Mr.Zhang's”(張さんの店)もある。ロケーションは悪くない。
 そして何より面白かったのは、宿の賑やかな小姐たちだった。暖炉の前でバター茶をすすりながら、小姐たちや油を売りに来る坊主やガイドとダベることは、極寒のこの街の、日が暮れた後の過ごし方としては、最高のものだったと思う。