四日目:理塘(1)

 理塘は、夏のホース・レース(競馬祭)には内外から旅行者から集まって賑やかになるらしいが、僕が訪れた冬季には、うら寂しい場末の街にしか見えなかった。
 しかし、だからこそ、剥き出しのチベタンの姿が垣間見えるとも言える。冬のこの時期を狙って何度も理塘を訪れるリピーターも少なくないらしい。

 とは言え、一見平穏に見えるこの街も、実は不安定なのだ。去年のホース・レースは、折からのチベタンと警官隊との衝突(チベタン住民の強制連行が原因だとか)のため、期間が短縮されたらしい。公共機関の建物には、この騒を戒める内容の貼り紙が多かった。そもそも、理塘の男は、共産党軍の侵攻に対して、最後まで反抗した人々なのだ。
 そんないかつい男たちが、のっそのっそと街を闊歩している。頭には赤い紐飾りをつけ、チベタン服に腕を突っ込みながら、眼光鋭く周りを見渡している。昔は馬に跨っていたのだろうが、今は単車だ(しかも、ガンガン音楽をかけている)。
 この理塘という街は、残念ながら僕は行ったことはないのだが、野武士がうろつく戦国時代が辛うじて終わった安土桃山時代の街とか、ガンマンが歩く西部開拓時代のアメリカ西部の街のように思える。

 つまりは、人が“濃い”のだ。これが、この街の一番の魅力ではないだろうか?

 もちろん、理塘寺からの大草原眺望も素晴らしい。僕が昼すぎに登ったところ、折りよくスーッと晴れて、遠くの大草原を見渡すことができた。遠くに道が伸びていくのが見えるのだが、ここが、西へ昌都(チャムド)・拉薩(ラサ)などのチベット本土へ向かうルートと、南へ郷城(チャンテン)・香格裏拉(ジョンディエン/シャングリラ)などの雲南へ向かうルートの交差点だということがよく分かる。

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カメラに不具合が発生してしまったため、以降の写真には↑のような感じで光が入ってしまっています。