関重忠『渡英のおもかげ』

関重忠 『渡英のおもかげ』 神戸, 中尾新太郎, 明治36年1903年), 53p.

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日英同盟締結(1902(明治35)年1月20日)直後のイギリス国王エドワード7世戴冠式に際して、日本からは明治天皇の名代として、小松宮彰仁親王が出席した。親王を乗せる艦隊を指揮したのは、「伊集院信管」で有名な伊集院五郎。そしてその配下にあったのが、イギリス留学経験を持ち、写真を趣味とした関重忠装甲巡洋艦浅間・機関長)、つまり本書の著者(撮影者)である。

関は、この渡英の一部始終をフィルムに収め、50数枚の写真集として刊行した。ここに収められているのは、石炭搭載の様子や、運動会などの艦員の様子、立ち寄った海港都市(スエズ運河アントワープジブラルタルコロンボバンコクなど)の遠景、英国艦隊と合同で行った観艦式の様子で、(戴冠式に出席した親王を港で待っていたので、当然と言えば当然なのだが)題材としては味気ないものばかりだ。
しかし、関の撮る写真は、彼の性格なのか肩書きのためか、はたまた当時の機器のスペックのためか遠景写真が多いのだが、アングルなんかは凝っていて(これとかこれとか)、単なる記録写真に留まらない魅力を伝えてくれる。ここに、嬉々として趣味を仕事場に持ち込むという何とも羨ましい軍人の姿が垣間見えるのは、私だけだろうか。

ちなみに関は、『日露戦役海軍写真朝日の光』(博文館、明治38年)という日露戦争日本海海戦の際の連合艦隊の様子を写した写真集も出版している。