ギャラリー アル・スィラージュ

tripinteriorを主催する友人kpita。旅仲間ではあるのだが、鄙びた民具愛好家として各所で「ガラクタ」を漁り、なぜか旧家の改装まで自分でしてしまう風変わり…否、もとい粋な男である。
今回の仙台行、流れで彼の実家兼会社を訪ねたのだが、それがまた粋。そこには、なんとギャラリー アル・スィラージュアラビア語で「ランプ、あかり」の意味)という私設ギャラリーが併設され、シリアのアレッポ遺跡を中心に、イスラエル・ヨルダン・イランなど中近東各地で発掘されたランプが100点余り収蔵・展示されているのだ。持ち主は、kpitaのご父君である渡辺信男氏。今回、館長自らコレクションを解説して頂けるという幸運に遭遇したのであった*1
このコレクションは、渡辺さんが友人の助力を得ながら1978年から収集されたもので、『ともしび:ローマンランプの世界〜渡辺コレクション1998』(1998, 白石, ギャラリーアル・スィラージュ, 32p.)という図録も刊行されている。詳しい解説は、図録や岩崎電気株式会社による紹介ページをご覧頂くとして、気になったことを幾つか。
展示品はすべて、あの江上波夫氏(一連の発掘の元締め)が峻別したもので、各点の箱には氏直筆の名札が付けられている。実際の展示の際には、その他の専門家の協力を仰いだとのことで、非常に専門的な上に、微妙に江上氏の見解と異なっていたりするのだが、それも愛嬌か。ただ、唯一惜しまれるのは、これらの展示品の出土地が分からなくなっていること。これがないと、研究対象としての活用度が格段に下がってしまうのは避けられないだろう。
発掘品の国外持ち出しの規制が厳しくなった今では、こういったコレクションが日本に突然変異的に生まれることは、もうあまりないのかもしれない。けれども、近くは渋沢敬三が自宅に動植物の標本、化石、郷土玩具などを収集した私設博物館「アチックミューゼアム(屋根裏博物館)」を開設して、日本民俗学パトロンとして宮本常一らの活躍する舞台を整えたように、学問を発展させる一つの原動力としてパトロンの「粋」というものがあるのも間違いないところ。
梅雨の白石に、思いがけない「粋」を見つけたということで。


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*1:日本では、中近東のランプの収集をしている方はもう一人いらっしゃるらしいが、それらは公開されていないとのこと