カトマンズからの手紙(3)


 ネパールの人たちは、これまで旅してきた中国の人たちと比べて、「丸いなぁ」という気がします。体質でなはなくて、気質の話です。恐らく、これから旅するであろうインドよりも。中国とインドという大国に挟まれた小国という立地とも大きく関係しているのかもしれません。
 そうそう、タメルには、行きつけのチャイ屋さんもできました。美人姉妹が店番をする店です。味だけで言うと、もっと美味い店はあるのですが、何となくリュウと連れ立って、毎日行ってしまいます。
 ただ、ちょっとしたトラブルもありました。
いつものようにダルバール広場を散歩していると、同じくブラブラしていた男から声をかけられました。男は、元アルゼンチン代表のオルテガのような感じで(分かるでしょうか?)、格好つけたようなサングラスに白いTシャツ、そしてスリム・ジーンズといういでたちでした。
「パタンでヒンドゥーの祭りをやってるんだ。バイクで往復、120ルピーで連れていってやるよ」
 パタンというのは、カトマンズの南にある旧王宮を擁する歴史都市です。暇を持て余していたし、値段も値段だし、話に乗ってみることにしました。しばらくバイクを走らせてパタンに行き、そこで毎週やっているらしいそのお祭りを見るまでは良かったのですが、カトマンズまでの帰り道のこと。バス・ステーションの少し手前の人気のないところでオルテガ氏は急にバイクを停め、「12ドル払え!」とすごんできたのです。
 こんな古典的な手にかかってしまった自分が情けないなぁと思いつつ、僕は断固として拒絶しました。すると、オルテガ氏は「Do you like fighting ?」と更に畳みかけてきます。状況が状況なら、財布を置いて逃げ出すところですが、悲しいかな、オルテガ氏の身長は、僕より小さい。これでは、どれだけすごまれても、ちっとも迫力がありません。それに、そもそもバス・ステーションの近くということで、宿までの道も分かっています。「If you want !」とやり返すと、唾をを吐いてバイクに跨って行ってしまいました。
 それだけのことですが、オルテガ氏が去った後、彼のちょっと間抜けなやり方に、僕は腹を立てるのも忘れて笑ってしまいました。
 そんなオルテガ氏も、一つ興味深い情報をくれました。もちろん、ケンカ別れする前です。
何でも、明日、大きなストライキがここカトマンズで行われるとのこと。詳細は分かりませんが、ここ数日の街の緊張感の高まりを見ると、さもありなんという気もしてきます。さすがに明日は、タメルから出ないようにしようと思います。