出発前


 卒業旅行。
 それは、学生生活の打ち上げであり、就職前の前夜祭である。どっちにしても、<学生>という特権を振りかざしての「悪ふざけ」ということには変わりないのだが、誰しもが甘酸っぱい思い出とともに青春の一こまとして記憶している一大イベントである。
 かくいう私もご他聞に漏れず、就職前に高校時代の同級生たちと<卒業旅行>を行った。大学院を中退しての就職だったので、実は、微妙に「卒業旅行」ではなかったりしたのだが、そのような些細な事はとやかく言うまい。

 2002年1月、中国やインドを巡る旅から帰還した私のために、高校時代の友人たちは歓迎の宴を開いてくれた。確か、奈良の東向き商店街にある御用達の居酒屋だったと思う。そのうちの何人かは3月に卒業を控えていたらしく、話は自然と<卒業旅行>の話へと流れていった。
 その時、誰からともなく、「このメンツで<卒業旅行>に行こう。」という声が上がった。「また旅に行ける!」そう閃いた次の瞬間、私はモロテを上げて叫んでいた。
「じゃあ、俺、幹事やるわ!」

 その後、ちょっと紆余曲折があって、最終的な<卒業旅行>メンバーは次の5名となった(いずれも仮名)。約1名、どう考えても<卒業旅行>にそぐわないメンバーが紛れているが、そこには突っ込まないで頂きたい。色々あるのだ。

  1. ケンタロウ 希望:ビーチではじけたい。3月卒業予定。海外は一年前のカンボジア(私も同行)以来。
  2. ヒサシ   希望:マッサージを受けたい。3月卒業予定。海外は高校の修学旅行(シンガポール)以来。
  3. ヒロヤ   希望:鉄道に乗りたい。3月卒業予定。海外は高校の修学旅行(シンガポール)以来。
  4. シゲオ   希望:なし。卒業時期未定。海外は高校の修学旅行(シンガポール)以来。
  5. 私     希望:暖かいところに行きたい。3月中退予定。海外は2月前のインド以来。 

 それぞれの<卒業旅行>への希望(上記参照)と、予算(10万円くらい)・期間(10日くらい)を踏まえ、旅先は、私の独断と偏見で「マレー半島縦断」と決まった。

 ここでは、その後の私の獅子奮迅の働きを細かく記すことは控える。しかし、旅行会社との交渉・手配を一手に引き受け、パスポートを持たない奴には勝手に〆切を設けて「この日までに用意しないと連れて行かない」と恫喝し、実家でTV版『深夜特急』の上映会を開催してメンバーの意識を高め、『地球の歩き方』を例に持ち物リストを作成した、ということだけ書いておけば、その奮闘ぶりは想像して頂けることと思う。
 とにもかくにも、3月、我々は準備万端整え、ついに旅立ちの日を迎えた。

※このカテゴリーで使う写真は、いずれも1999年の旅行のものです。