中橋徳五郎『台湾視察談』

中橋徳五郎述, 安達朔寿記 『台湾視察談』 大阪, 安達朔寿, 明治32(1899)年, 16p.

<本文>

中橋徳五郎(1861-1934)は金沢生まれの官僚・政治家・実業家。
中橋は逓信省の鉄道局長を辞して大阪商船社長に就いたすぐの1898年と1899年、台湾の視察に出かけている。もちろん単なる物見遊山ではなく、その狙いは台湾総督児玉源太郎と会談し、同社航路の拡大の支援を取り付けることにあったとみて間違いないだろう。実際、台湾航路の拡大に成功した同社は業績を伸ばし、中橋も関西の政財界で一層重きをなしていくことになる。
本書は、二度の台湾出張の際の見聞をネタにとある会合で演説したものを、安達朔寿という人物がまとめたもの。内容としては、とかく「政治が困難」「気候が悪い」「港湾がよくない」「交通も不便」とネガティブなことを言われがちな台湾について、(彼の立場を考えれば当然だが)「そんなことはない」と主張するものになっている。
興味深いのは、1898年当時の日本内地−台湾間の移動人数についての言及。中橋率いる日本郵船の乗客統計によれば、合計44,000余人で、うち軍属が12,000余人ということだったそうだ(数字はいずれも1898年一年のもの)。